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琴、薩摩おごじょ  作者: ひみつの物書き
3/5

 威張ってん、腕が伸びんなら仕方がなか。


 あの言葉は、聞き捨てならなかった。

 琴は母のおつかいの帰りだった。野良仕事をする父に竹筒の水を届けに行ったのだ。

 ちょうど、造士館から帰る武士の子たちに出会った。兄の姿を探したが見当たらないので、琴は少しがっかりした。

 

 (兄いは家に戻っておらるっかも)

 足を早めて男の子たちの横を通り抜けようとした時、その言葉を聞いてしまったのだ。

 思わず立ち止まって振り向くと、違う郷中の少年が、さも腹ただしそうに鼻の下をかいているところだった。


 どんなに威張ったって、あいつは右の腕が伸びない。剣ができない薩摩隼人なんか考えられない。


 そんなことを、少年は更に付け加えた。

 誰のことを言っているのか明白だった。


 「おい、あれは西郷の妹だぞ」

 一緒にいた他の少年が、琴を指さして言った。

 聞かれたんじゃないのか、まずいぞ。


 琴は立ち止まったままだ。

 兄の悪口を言っていた少年たちも足を止め、しばらくにらみ合いが続いた。


 「へっ、貧乏人が」

 と、誰かが言った。

 貧乏人という言葉は、去年の兄の負傷を思い出させる。それから後のことは、正直、よく思い出せない。


 「いてっ」


 気が付いたら右手が動き、男の子の頬を張っていた。

 わっと少年たちは騒ぎ出し、女のくせに、とか、女にぶたれてみっともない、などと、大声を上げた。

 

 「何事か」

 大人が駆けつけてきて、琴は我に返った。

 

 「こいつが、殴ってきた」

 相手の少年は自分の非を棚上げにし、琴を指さした。

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