生まれ変わった女
女は皮膚の痛みで目が覚めた。顔をしかめながら、そっと頬に触れる。皮膚がざらざらしていた。軽く皮膚を押してみると、グチュリとイヤな音がし、血がにじみ出てきた。
女はため息をつくと、ベッドから降り、壁際に置いてある姿見の前に立った。皮膚はひび割れていて、まるで乾燥して干涸らびた地面のようだった。顔だけでなく、全身の皮膚がひび割れていた。
女は鏡越しにひび割れた皮膚をじっと見つめた後、ゆっくりと目を閉じた。すると、お腹が勢いよく膨れ上がった。ひび割れたお腹の皮膚から生えてくるかのように、赤ん坊が姿を現した。赤ん坊は女の幼少期に酷似し、膨れ上がったお腹は空気が萎むように一瞬で凹んだ。
女は目を開けると、マッサージするかのような手つきで赤ん坊の頭を揉み始めた。赤ん坊の頭は柔らかく、指が食い込んだ。次の瞬間、全身の皮膚が意思を持っているかのように蠢き、剥がれ落ちた。
赤ん坊の頭を揉むたびに、どんどん皮膚が剥がれ落ちていき、血がにじみ出てくる。にじみ出た血は新たな皮膚へと姿を変え、女の全身にぴったりと付着していく。ひび割れていた皮膚は透き通った肌になり、女は生まれ変わったかのような気分だった。
うっとりとした表情で鏡越しに自分を見つめていると、寝室の扉が開く音がした。女は反射的に扉の方を振り向いた。扉の近くには病気で余命幾ばくもない父が立っており、お腹からは赤ん坊が生えていた。
父は赤ん坊の頭に触れた。その直後、赤ん坊の頭から触手が伸びた。触手は女の皮膚に付着していく。女は白目を剥き、全身を震わせ、父は赤ん坊に吸い込まれていくかのように、ゆっくりと萎み始めた。
全身を震わせる女の皮膚に父の幼少期から現在に至るまでの記憶が映し出されていく。女の皮膚に父の記憶が映し出されるたびに、赤ん坊は縮んでいき、やがて触手とともに消滅した。
女は父の記憶を皮膚で吸収したことにより、ガタイが良くなり、髭も生えていた。女は再び、お腹から赤ん坊を出現させた。赤ん坊は女と父の幼少期が混ざった姿に変貌していた。
女は赤ん坊から姿見に視線を向け、生まれ変わったばかりの透き通った肌に髭が生えたことにショックを受け、深いため息をついたのであった。
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