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そして僕らは。【オリジナル楽曲付小説】  作者: さかなぎ諒
第一章 そして僕らは。
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第5話 その後②(晶矢の場合)

※晶矢視点

 あいつ、同じ学校のやつだよな。


 でも見たことないやつだった。



 その日、いつもより遅く家に帰ると、母と、既に仕事から帰ってきていた父にこっぴどく怒られた。

 進路相談室から飛び出したきり、連絡もせず、電話にも出ないで、夕飯の時間になっても帰らなかったからだ。

 心配をかけた自分が悪いので、素直に謝ったが、説教タイムが始まってしまった。



 俺は日が暮れたあとも、しばらくあの公園のベンチにいた。

 鞄からノートを取り出して、浮かんでくるコードをギターで鳴らしながら、夢中で譜面を書いていた。

 薄暗い街灯の下、蚊に刺されても、心が高揚して、音が溢れてくるようで止められなかった。


 今までも自分で曲を作ったことはあるが、こんなに急かされるような焦燥感を感じながら、曲を作ったのは初めてだ。



 あの時聴こえてきた、ネットで聴いたことのある曲のアカペラ。



 どうして俺は、無意識のうちにギターを取り出して、あの歌に合わせて弾き始めたのだろう。

 自分でも訳が分からない。


 美しい夕焼けの空から降り注ぐような声音に、心を奪われていた。


 俺が昔初めて、ギターの音色に心を打ち抜かれた時みたいな衝撃が、全身を駆け巡っていた。

 重なり合う音が心地よくて、ずっと聴いていたかった。




(楽しかったな)




 曲が終わった瞬間、無性に寂しかった。

 まさか涙が出てくるとは思わなかったが。



 自分の夢、親との軋轢、今日までのことがないまぜになって、感情が溢れただけなのかもしれない。



 けれど、多分それだけじゃない。


 あの歌声が、耳からずっと離れないのだ。



 あれだけぐちゃぐちゃしていた感情も全部一瞬で吹っ飛んでしまった。帰ってきて親に怒られている間も、もう何を言われても、どうでも良くなっていた。



「晶矢、来年は受験生なんだぞ。もっとしっかり自覚を持て」



 散々小言を言ってやっと満足したのか、リビングから出て行く父の背中に、俺は「分かった」と小さく返事をした。


 小一時間、やっと説教から解放された俺は、自分の部屋に戻ると、さっき公園で書いたノートと、帰りにコンビニで買ったシャケおにぎりを取り出した。

 おにぎりを頬張りながらノートを開く。


 暗いところで書いたので、間違いがないか譜面を指でなぞり、メロディを確認する。



(あいつに歌ってほしいな)



 もっさりした黒髪の、メガネの男子生徒。


 余りにも存在感がなくて、瞬きすると儚く消えてしまいそうな気がして、目が離せなかった。

 なぜか、キャベツを抱えて、逃げていってしまったが。



(月曜日、学校に行ったら絶対探し出す)



 うちの高校は学年ごとに六クラスある。見たことないやつだったし、とりあえず一年生のクラスから回ってみるか。


 だけど今日は疲れすぎた。

 俺は着替えもしないまま、ベッドに寝転がると、そのまま朝まで寝落ちしてしまった。


 しかし、まさかその日から『あいつ』を見つけ出すまで、一週間掛かるとは思っていなかった。

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