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そして僕らは。【オリジナル楽曲付小説】  作者: さかなぎ諒
第二章 僕は君の傍にいて
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第8話 雨あがりの木曜日③(学校へ行こう)


「じゃあ、俺たちはこっちだから」



 分かれ道である路地に差し掛かったとき、春人は立ち止まった。



「えーコジロー行っちゃうのー」



 直生が残念そうに言うと、春人が少し腰を屈めて直生に目線を合わせて言った。



「そうなんだ。コジローのお家こっちだから。今日は君と一緒に、お散歩出来て楽しかった。今度また一緒にお散歩しよう?」


「ほんと? また会える?」



 すると春人は直生に「もちろん」と頷いて微笑んだ。



「コジローとムサシはお友達だし、俺とそこのお兄ちゃんもお友達だから、すぐに会えるよ」



 二人の会話を隣で聞いていた涼太郎が、「お友達」という言葉に反応して慌てている。

 直生が「そっかー」と納得して頷くと、コジローに手を振った。



「じゃあまた遊ぼうねー、コジロー」


「あ、あの、ありがとうございました」



 涼太郎が春人にぺこりと頭を下げると、



「またね、涼太郎くん。お祭りで二人に会えるの楽しみにしてるよ」



 そう言って春人はにっこり笑って手を振った。コジローが名残惜しそうに、こちらをチラチラと振り返りながら、春人と一緒に涼太郎たちと違う道の方へと歩いて行った。



「じゃあ、僕たちもそろそろ帰ろうか」




 涼太郎たちは、無事に原田さんのお宅へと戻ってきた。



「あら、お帰りなさい」



 原田さんが玄関先で出迎えてくれると、直生が嬉しそうに駆け寄っていく。



「おばあちゃん、ただいま! 僕、ちゃんとムサシのお世話できたよ!」


「そう、偉いわね。涼太郎くん、直生の相手までしてくれて、ありがとう」



 原田さんが直生の頭を優しく撫でながら言う。ムサシは原田さんの足元で、いつものように水をペロペロと飲んでいた。



「途中でねーコジローも一緒に散歩したの」


「コジロー?」



 首をかしげる原田さんに、直生の代わりに涼太郎が説明する。



「あ、この間の散歩の時、逃げちゃったワンちゃん、です。柴犬なんですけど、さっき偶然また会って……」


「コジローはムサシと友達なんだって。川の近くの大きいお家に住んでるの」


「川の近くの?」


「うん、コジローのお兄ちゃんは、このお兄ちゃんの友達なの。また一緒に散歩しようって」



 直生がムサシを撫でながら「楽しかったねー」と声をかける。



「大きいお家って、もしかして……佐原さんのお宅?」



 原田さんが、涼太郎にそう尋ねるので、涼太郎は少し驚いて「そうです」と頷いた。



「あらあら、そうだったの。不思議な縁もあるわねえ」



 原田さんが「ふふふ」とどこか意味有り気に笑う。



「ご存知、なんですか?」


「そうねえ、知ってるわよ。そこのお祖父さんとは昔からの知り合いでね」



 涼太郎が聞くと、原田さんは少し遠い目をしながら言った。



「たぶん、あなたのお祖父さんに聞けば、もっと知ってると思うわよ?」


(じいちゃんが?)



 思わぬところで繋がりがあることを知り、涼太郎がびっくりしていると、原田さんが小さい袋を手渡して来た。



「はい、今日とこの間の分のお駄賃。今日は、直生の面倒も見てもらったから、少しだけど多めに」



 それでお昼でも食べて、そう言って原田さんは微笑んだ。




 朝はどんよりとしていた空も、昼前になると薄曇りくらいになって来た。

 その分気温も上がって来ている。


 原田さんのお宅からの帰り道、涼太郎は先程春人の言った言葉を思い出していた。



『今度は君が、晶矢くんを押してみるのも、いいと思うよ?』



 押す、とは具体的にどういうことなのだろう。春人から貰った水族館のチケットを懐から取り出し、見つめる。



(僕の方から誘ってみろってことなのかな。あっ、でも……)



 涼太郎は、そういえば晶矢の連絡先や家など、何も知らないことに気がついた。



(ああ、しまった……電話番号とか聞いておけばよかった。誘おうにも、連絡先知らなきゃどうしようも……)



 涼太郎はスマホを持っていないので、晶矢と連絡先を交換するということに思い至らなかったのだ。


 今週、晶矢は学校の夏期講習に行くと言っていた。涼太郎たちの学校の夏期講習は自主選択制で、夏休み前に事前申請する。ちなみに涼太郎は、去年も今年も申し込んでいない。



(うーん。学校……行ってみようかな)



 現在の時刻は正午前だ。

 今行けば午前中の講習が終わる時間帯だろう。


 今まで夏休みに学校なんて行ったことがないが、晶矢の連絡先を知らない以上、学校にいるかも知れない可能性にかけてみるか。


 そう思った涼太郎は、一度家に戻って、制服に着替えてから、学校に行ってみることにした。

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