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そして僕らは。【オリジナル楽曲付小説】  作者: さかなぎ諒
第一章 そして僕らは。
23/132

第23話 夏休み二日目⑥(君に夢中)

「ところで晶矢くん」



 春人が晶矢に視線を移して尋ねる。



「あの話、考えてくれた?」


(あの話?)



 涼太郎は気になって、話に耳を傾ける。



「うーん、やっぱ無理、だと思います」


「どうしても?」


「俺はもちろんやりたいけど、親が……」



 晶矢が少し困った顔で、春人に返事をする。



「この間学校でギターやってること、たまたま先生から親に伝わっちゃって……家で散々言われたんで。次またそんな話が親の耳に入ったら、今度こそギター捨てられるかも」



 その話を聞いて、ギターは普段学校に置かせてもらっていると、晶矢が言っていたのを、涼太郎は思い出した。



(捨てられるって……そんな……)



 晶矢のギターに対する熱意を知っているだけに、涼太郎は理不尽さを感じて悲しくなってしまう。



「文化祭に出たことが親に知られて、ギター出来なくなる方が辛いかな」



 晶矢がどこか諦めたような表情で言った。



(文化祭? あ、もしかして……この人たちに出ようって誘われてるのかな?)



 学校の文化祭は毎年夏休み明けに開催される。


 各クラス毎に模擬店や展示など、それぞれアイデアを出し合って催しをやるが、確か体育館のステージでは、バンドや吹奏楽、劇などが上演されていたはずだ。

 ちなみに涼太郎はもちろん、去年の文化祭のステージは見ていない。校内でひと気の少ない場所を転々としながら、一人で時間を潰して過ごしていたからだ。


 涼太郎は二人の話を聞いて、なんとなく話の流れが見えてきた。



「多分文化祭だけ出たいって言っても……小言言われて、結局ダメって言われて、話すだけ徒労に終わる気がする」



 晶矢が苦笑いしながら言った。



「そうか。君と組める折角の機会なのに残念だな。君の親御さんに理解を得るのは難しそうだね」



 春人が心から残念そうに言う。



(晶矢くんの親は、厳しい人なのかな……)



 ギターを愛する彼にとって自由に音楽をやれないことは、どれだけ辛いだろう。

 制限された環境の中で、ギターを続けるために、どれほどの努力をしてきたのだろう。


 晶矢の置かれている状況を知るにつれ、涼太郎は少し胸が痛んだ。



(この人たちとは、どんな音を奏でるのかな)



 涼太郎は、聴いてみたいのにな、と思った。


 すると今まで隣で黙って聞いていた優夏が、突然「はぁ?」とドスの効いた声を上げると、関を切ったように言った。



「ちょっと、何よその親。自分の子供が頑張って一生懸命やってることを、知ろうともしないで、頭ごなしに全否定するなんて。信じられない。理解はしてくれなくて結構だけど、人の道から外れたことじゃない限りは、せめて認めてあげるのが、親の役割っていうか、人としての礼儀ってもんじゃない?」



 晶矢と涼太郎は、急に凄みのある声で、一気に捲し立てた優夏に驚いて目を丸くした。

 春人はそれを見て苦笑いしている。



「ユウ、地が出てるよ」


「あら、やだ。つい」



 優夏は大きなガタイで恥ずかしそうに口元を両手で隠した。



「でも、言いたくもなるわよ。晶矢、あなたは誰も見てないところで、めちゃくちゃ頑張ってるんだから、少しは報われるべきだと思う」


「ユウさん、ありがとう。でも痛い……」



 優夏が晶矢の肩を抱いて、というか絞めて慰めている。力の加減がおかしいような気がする。



「まあ、それはそうだね。軽音部の入部を反対されて、文化祭ライブの飛び入り参加でさえ認められないのは、いささか晶矢くんが可哀想だ」



 春人が優夏に同意して言った。すると、ようやく優夏に解放された晶矢が肩を撫で下ろしつつ返事をする。



「春人さんたちとライブ演れないのは、ほんと残念だけど……ステージに立てなくても、まあいいかなって思ってます」



 晶矢はそう言って、二人の前に、自分の後ろに隠れていた涼太郎を引っ張り出した。



「俺、こいつと音楽やることになったので」


「……⁉︎」



 涼太郎は突然人の前に立たされて動揺する。



「……は? あの……えっ?」



 おどおどしている涼太郎を尻目に、晶矢は涼太郎の肩を抱いて、にっこり笑って言った。



「今は俺、涼太郎に夢中なので」


「え……⁉︎」



 涼太郎は晶矢の言葉に、更に動揺してしまう。



「こいつの歌に、夢中なんです。涼太郎と、自分たちの曲を作るのが今楽しくて」



 晶矢が割り切った様にそう言うと、春人と優夏は一瞬驚いた顔をして、それから涼太郎に視線を移した。



「それは興味深い」


「何それ素敵」



 二人に観察され、涼太郎は顔を真っ赤にしてついに固まってしまった。



「是非、聴いてみたいな」



 そう言って二人はにっこりと笑って、涼太郎の手を取った

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