第97話 鎌イタチごっこ
「ぐへへへ! 女を相手にするってのはいいもんだなぁ!」
私はヴァランシャという名のデーモンと切り結んでいる。相手の武器は刀。極東の国で使われている切れ味の鋭い刀剣とその技を得意にしているみたい。それよりも私を見る目がいやらしい。気持ち悪い。酷く寒気がする。
「疾風・真一文字!」
刀が真横になぎ払われた。動作が速いくらいで何の変哲も無い攻撃だった。後ろへ少し下がって回避したものの、何か違和感を感じた。
「……!?」
避けたはずなのに衣服が切り裂かれていた。違和感の正体はこれだった。不思議なことに体には傷が付いていない。その様子を見た相手がニヤリと笑っているのに気が付いた。
「ウェヘヘ!! 不思議だろぉ? 避けたはずなのになぁ! どうしてだろうなぁ?」
これはわざとやっている。その気になれば私を傷付けることは出来たはず。わざと寸止めにして私の反応を見て楽しんでいる。許せない。
「東洋にはよぉ、鎌イタチってモンスターがいるらしいなぁ。相手に痛みすら感じさせねぇぐらいに鋭い切れ味の鎌で切り裂いてぶっ殺すようなヤツらしいぜ? これはそれを真似した技だぁ!」
その言葉を合図に相手は猛然と斬りかかってきた。避けたと思っても斬られる可能性があるので、細心の注意をはらって回避をする。
「……くっ!?」
「無駄だぜぇ、これが無影鎌鼬だぁ!」
これだけ回避に気を使っても、どんどん衣服に切れ込みが入っていく。このままでは戦い以外の事を気にしないといけなくなる!
「うぇっへへへ! 女ってのは不便だなあ! 戦いの時でもそんなこと気にしなきゃいけないんだからなぁ!」
なんて下品なの! こんな敵は初めてだ。戦いの中で嫌がらせをしてくるなんて。これもデーモン特有のいやらしさなのかもしれない。
「早くなんとかしないと、服が全部なくなっちまうぜぇ!」
本当にそうかもしれない。そうなる前に手を打たないといけない。ここは思い切って大技を使った方がいいかもしれない。
(……ヒュン!)
「おっ!? なんだ? 避けきれないから大回りに避ける、ってかぁ?」
相手には大きく間合いを取って移動しているように見えると思う。そう思っているのなら、それでいい。そのうち、取り返しのつかない事になっているのに気付くはずだから。
「まあいいや! 要は鬼ごっこみてえなもんだな! 燃える展開じゃねえか! 女を追い回すってのはいいもんだ!」
私が大きく移動し、相手がそれを追いかける。ただ離れるだけでなく、時折すれ違うように交差する。それでも相手は捕らえきれずに私を逃してしまう。相手を巧みに煽りながら移動を続ける。
「そうか! 道理で速えと思ったら、アクセレイションを使ってやがるな! そんなのほとんど魔族じゃねえか! もう俺らの仲間になっちまえよ! 歓迎するぜぇ?」
「お断りよ! あなたのような下品な人がいるなら尚更! それに……そろそろお別れのようね。」
「……は!?」
「絶影百歩!」
相手の言うようにアクセレイションを有効に活用し、先生の技を再現する。五覇奥義は先生に見せてもらっていたので、見様見真似で再現した。もちろんそれだけじゃない!
「戦技一0八計が一つ! 踏宙華葬!!」
すれ違いざまに相手を大鎌で一閃する! もちろんこれは仕上げの一撃で、今までの間、回避に見せかけ、切り刻んでいた。相手に気付かれないように切れ味鋭く。
「おぎゃああああっ!!!!」
相手の全身至る所が切れ込みにそって崩壊を始め、黒い体液を華のように四散させている。この様子が技の名前の由来になっている
「これが本当の鎌鼬かもね。あなたが本気で真似事していれば、こうはならなかったんじゃない?」
もう事後なので返答は帰ってこない。死にながら後悔しているだろう。目の前の女を舐めたことを。




