第96話 迫る! 死の円盤《ディスコーマ》!!
「背中に傷作るたぁ、騎士の名折れだな、イグレス! そんなので騎士を続けるなんて、俺にはとても、とても!」
先程の死の円盤で背中を斬られた。鎧を着た上でも、斬られたというのだ。金属をも易々と切り裂く威力なのは間違いない。剣や盾で受け流そうものなら、逆に真っ二つにされてしまうだろう。これは恐るべき技だ。
「オマケに剣はこっちにある。どうするんだぁ? 絶体絶命じゃねえか、オイ?」
傷を負った上に剣も手元にない。シャイニング・ガストの後から剣は奴の体に食い込んだままだ。とはいえ、剣を諦めていなければ、今頃私は真っ二つになっていただろう。
「こっからは俺の処刑タイムに入るわけだが、何か言い残すことはあるかぁ?」
「ないな、特に。」
「おやおや、希望なくして何も思いつかないってか? かわいそうに!」
「死にはしないからな。この程度のことでは。」
現在の戦況は非常に厳しいと言える。だが、勝算が完全にゼロというわけではない。武器は手元にない。それはあくまで今は持っていないというだけだ。
「死にはしない? 何言って……何言ってんだゴルァァァァッ!!!」
激昂したナビダッドは腕で猛連打してきた。フレチャ・コンセクティボスとか言
ったか? 遠い間合いから攻撃してくる。私に武器は無いにも関わらずだ。
「チョロチョロ避けやがって! さっさと諦めやがれ!」
「すまん。諦めが悪い質でな。体が勝手に動いてしまうのだ。」
私は回避しつつ、ある物を拾うための機会を窺っていた。私が持ってきたのは剣だけではない。奴自身もそのことは忘れているだろう。
「チクショウ、埒があかねえ! もういたぶるのはやめた! ひと思いにぶっ殺してやんよ!」
ナビダッドは連打を止め、両腕を後ろに引いた。あの技を今度は両手で行うつもりだろう。私はこの機会を待っていた! 地面に落とし、放置しておいたあの武器を手に取った。
「……!? 今さら突撃槍かよ! そんな馬の機動力ありきな武器で何が出来るってんだよ!あまりのピンチに頭おかしくなったんじゃねえか?」
「フフ、まさしくそうかもな。私が今から野郎としていることはある意味、暴挙とも奇行とも取れる行為に等しいからな!」
「その狂った頭を黒い円盤で落としてやんよ! ドス・コルタル・ディスコーマ!!!」
二つの黒い円盤がこちらへ向かってくる! 通常なら回避行動を取るところだが、私は敢えて、槍を構えながら突進を始めた。
「そんなんで、ディスコーマを破れるモンかよ!」
私の行動を見て、奴も円盤の動きを変化させた。私を両側から挟み込むような軌道へ変更させている。私の思惑に嵌まってくれたようだ。
迫り来る円盤を十分に引きつけた上で次の行動に移す!
「トウッ!!」
「な、何ぃ!?」
私は槍を使い棒高跳びの要領で跳躍した。その勢いで相手の頭上へと飛んだ。その時背後では円盤が槍を切断する気配を感じた。私が宙を舞った時点で槍は手放しているので問題は無い。
「大道芸を決めたつもりらしいが、まんまと捕まりに来やがったな!」
(ガシィッ!!)
奴の頭上に迫った私は、奴の手で胴体を掴まれてしまった。あと一歩というところで阻まれたという形だ。だが問題ない。想定済みだ。
「捕まえたぜ! もう離さねえ! これでお前は終わりだぜ! このまま頭と足を切り落としてやらぁ!」
死の円盤が私に向かって来ている。終わりだ。もちろん私ではなく、奴にとってだが。私は策の最後の仕上げに取りかかることにした。
「フフ、では私は貴様の両腕を落とさせてもらおう。」
「な、何を言って……!?」
奴は私の鎧を掴んでいた。今は……ただの抜け殻と化している。そう、私は鎧から抜け出したのだ。
(ザンッッ!!)
「ウゲァァァァッ!? う、腕がぁ!?」
死の円盤は奴自身の両の手首を切り落とした。いなくなった私に気を取られ、位置を調整し損ねたと見える。
「チェックメイトだ、ナビダッド!」
「こぉぉぉんチクショウめぇぇぇぇっ!!!」
奴は半狂乱になって先のなくなった腕をブンブンと無造作に振るう。
「チクショウ、当たらねえ!?」
「知らなかったのか? 鎧を脱いだ私のスピードはあらゆるものを凌駕する!」
半狂乱の攻撃を掻い潜り、奴の眼前に肉薄する。そして、奴の胸に食い込んだままの剣の柄を両手で掴み、そのまま相手ごと持ち上げる。
「ギアァァァァァッ!? 俺をどうするつもりだぁぁぁ!?」
奴を持ち上げたまま、スクリュウ・ガストの要領で剣の柄を回す。剣は食い込んだままなので奴が大きく回転する形になる。
「グワアアアッ!? 目が回るぅ!?」
「目が回る? ならばまばゆい閃光で視界を奪ってやろう!」
光の闘気を込め、更に回転を早める。周囲が光の闘気で包まれる。ここからが技の本番だ!
「シャイニング・バリエーション・パート5! S・T・F!!!」
「ぎょえぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
立ち上る閃光と共に奴の体は四散した。これでもう再生すら出来ないはずだ。
「フフ、本来この技は大武会で披露するはずだったのだがな。技の犠牲者第一号になったことをあの世で誇りに思うがいい。」
ルス・デルソルはあわせて二人葬った。残りはまだまだいる。早く誰かに加勢せねばならんな。




