第94話 雑魚を蹴散らせ!
「チクショウ、どいてくれ! 俺はエルの所に行かないといけないんだぁ!」
次から次へと襲い来る猿軍団をバッサバッサとひたすら斬り倒す。お馬さんに嫌われた結果、俺はまだエルやエドに追いつけないままでいた。その間、猿軍団が次から次へと押し寄せてくる! エル達の姿が遠く見えなくなってから、途端に数が増えてきたような……。
「俺たちゃ、恵まれてるぜぇ! 勇者だ、勇者を殺りさえすれば大手柄だ!」
「そうなりゃ、ルス・デルソル入りも夢じゃねえ!」
死に物狂いになって奴等が寄ってたかって、俺を集中攻撃してくるのはそのためだった。奴等からしたら、俺の首は賞金とか、クラスチェンジアイテムみたいなモンなんだろう。だからといってこれはあんまりだ! なんでちょっとした手違いで俺がこんな目にあうんだぁぁぁ!
「しつこいぞ、コイツ! さっさとくたばれ!」
「一人のクセにしぶといんだよぉ!」
そろいもそろって、好き勝手言いやがって!俺は俺で集団を相手にするときの戦技“縦横舞陣”を有効に使っている。敵の攻撃を隙間を縫って切り抜け、生き延びる戦法だ。攻撃よりも逃げることを重視しているので、積極的に敵の数を減らすことが出来ない。敵の攻撃をかいくぐる中、周囲が急に明るくなった。待ちかねたアレが来た。
(ギュオァァァァッ!!!)
「ギャアアアッ!」
「ギニャアアッ!」
猿どもを蹴散らす螺旋状の光弾! 閃光魔法の援護射撃! 定期的に後方からクロエさん達の攻撃が入ってくる。その機に乗じて俺も攻撃を加えて一気にサルどもの数を減らす。
「行くぞ、ダメ押しのシャイニング・イレイザー!!」
「ぐぶう!」
「ウキ……、」
基本的にはこれの繰り返しで、何とか奇跡的に孤軍奮闘できているのだ! それでも全然数が減らんような気がする。キリがない。
「キキッ!? もう一人増援が来やがった!」
サルどもが何か騒ぎ始めた。誰か俺の助太刀にやってきたんだろうか? とはいえ確認するヒマもない。してたらやられるし。でも、誰なんだろう?
「赫灼の雨!!」
(ザ、ザ、ザ、ザ、ザ、ザ、ザ、ザ、ザ、ザッ!)
「ゲゲッ!」
「ウケアァァツ!!」
聞いたことのある技の名前、断続的に聞こえる切断音、そして辺りに舞う火の粉! この技を使うのはアイツしかいない!
「ロッヒェン!」
馬に乗った赤い大剣を持った騎士がいた。アイツだった。そういえば持っている剣の種類が変わっている。二刀流じゃない。しかも周囲に浮かぶ謎の刃を随伴させている。何だ、アレは?
「勇者である、あなたが一人で囮役を務めているなんてね。てっきり敵将と刃を交えているのかと思いましたよ!」
好きでこうなったんじゃないやい! お馬さんに邪険にされたからこんな目にあったなんて誰が思うだろう? 言っても信じてもらえないような気がする。
「一気に蹴散らしますよ! 雑兵ばかりに構ってられない!」
ロッヒェンは宣言通り、技でサルどもを次々と蹴散らしていく。俺も乗じてシャイニングイレイザーで多くの敵をなぎ払った。それをひたすら何度も繰り返し……雑兵を全滅させた。
「あらかた片付きましたね。でも、ここからが本番のはず。僕は先に行きますよ。師匠達がルス・デルソルと戦っているはずなので!」
一人、速攻で行ってしまった。俺はまた置いて行かれた。とはいえ馬には乗せてもらえんだろうけど。
「囮として良い働きをしてくれましたね。おかげで状況を打開できました。」
後ろからかけられた女性の声……クロエさんだった。雑兵がいなくなったので前に出てきたみたいだ。
「お役に立てて光栄です。勇者がやるような事じゃない気がするけど。」
「あなたにはお似合いの仕事だと思いますけど? 大抵はイグレス様がいれば十分ですもの。」
相変わらず、エド第一主義のようだ。この人はそう言ってはいるが、今回ばかりはさすがにエドでもやばいんじゃないだろうか?
「雑兵は片付きましたが、何か胸騒ぎがします。これから私はイグレス様の加勢に赴くつもりです。」
「奇遇だなぁ。俺も同じ目的なんだよなあ。」
「あなたは特にグランデ嬢を手助けしたいんじゃなくて?」
「そうとも言う!」
何はともあれ、急がなくてはいけない。最前線に勇者がいなくちゃ、話にならないからな!




