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第91話 十字の炎剣《フランメ・クロイツ》


「おーい、聞こえるか? 返事しろー!」



 鼻から大出血アンド気絶というムーブをかましたジュニア。しょうがないから、ウチがそのままここで応急処置をした。鼻に詰め物して、血を止める治療術を多少使った程度だけど。ホントにだらしないなあ、童○どもは! しばらくして目を開けたから、声をかけてみたわけだ!



「……うう。」


「目覚めてる?」


「クソっ! 僕はこんな所で倒れている暇なんてないはずなのに……。なんて、情けないんだ!」



 まだ悔しがってる。ウチと話してぶっ倒れる前からずっと変わってない。そろそろ助け船を出してやるか。見てらんないし。



「なんでさ、アンタ、仇討ちにこだわってんの? 実力が不十分って言われてんのにさ。そんなムキになっても結果出せないよ?」


お嬢さん(フロイライン)、僕でなければいけない理由があるんです。総長の話で父を殺され、技を盗まれた事を聞いたと思います。実は奪われた物はそれだけではないんです。」



 何よ! そんな大切な事なら初めっから言いなさいよ! あのハゲ、重要な事抜かして話してたんだな。内輪だけしかわからないような話するなっての! あとで文句言いに行ってやる。



「それは何?」


「我が家の宝剣、“十字の炎剣(フランメ・クロイツ)”も奪われたのです。赫灼の雨はあの剣でないと真価を発揮できない。あの剣が魔族の手に渡った以上は、勝つのは難しいと思います。それを知っているのでみんな反対するんです。」


「それでも勝ちたい、取り戻したいんでしょう?」



 ジュニアはうなだれる素振りをしながら、歯を食いしばって、拳に力を込めている。勝ち目は無くてもどうにかしたいという意志が伝わってきた。



「その剣って何か特別な物なの?」


「希少なミスリル銀を使っている上に、炎属性を増幅する永久エンチャント処理が施されているんです。現代の技術で再現するのは難しいと言われています。総長が持つクルセイダーズの至宝“十字剣”並みに価値がある宝剣なんです。」



 ああ~、あの十字剣ね。ウチの実家にあった勇者王の剣の二番目くらいに有名なヤツか。あの手の武器はロストテクノロジーの塊な上に、材料もレアだもんね。価値も国中のお金かき集めても変えそうにないくらい高いとか言われてる。コイツの実家の剣はそこまでいかないんだろうけど、半端じゃない価値はありそうだね。



「僕のこの剣では刃が立たないかもしれない。でも、何とかしたい。命に替えてでも、ロッヒェン家の誇りは取り戻したんです!」


「命に替えてでも……何言ってんの、アンタ! アンタが死んじゃったら、誰が受け継ぐのさ! 血が途絶えちゃったら、誇りとか伝わらないじゃん!」


「でも、魔族に誇りと技を奪われたまま、黙って見ているわけにもいかないんです! そのままになるなら相打ちになってでも、取り返したい!」


「バカ言ってんじゃないわよ! 死ぬなんて言うな!」


(バシィッ!!)



 怒りのあまり、思わず手が出てしまった。でも、後悔はしない。こんなバカはこれぐらいしてやらないと目を覚まさない。ホントに死にに行こうとしたヤツを知ってるし、二度も同じ事を見たくないから。



「貴女も行くなと言うんですね?」


「ホントはそうだけど、アンタはそれでも行くんでしょ? だったら、ウチが力貸したげる。武器を用意できればいいんでしょ?」


「何を言ってるんです! その方があり得ない! あの剣はこの世に一振りしかないんですよ!」



 ウチなら出来る。むしろ、ウチにしか出来ない役割だ。レプリカとはいえ宝剣を再現することは出来るはず。あわせてコイツ自身に剣を最適化してあげれば、本物以上の力も出せるはず。



「ウチさ、実は剣の巫女なんだ。勇者王の剣を守り、歴代の勇者に剣を授けてきた家系。聞いたことあるでしょ?」


「あ、貴女が剣の巫女!? ただ者ではないと思ってはいましたが、その様な血筋の方だったとは!」



 まさかこんな形でこの前覚えた力を使うことになるなんて。今までは勇者の剣しか変成させられなかったけど、他にも適用できるように練習した。サヨちんから変成魔術の応用法を色々教わったから、物を作る幅が広がった。もちろん、ゆーしゃとエルるんの服とか、ワンちゃんの瓶型フレイル作るときにも使った。あの辺が試作第一号、第二号になる。



「剣を作り替える前に“十字の炎剣(フランメ・クロイツ)”の形をウチは知らない。だから、アンタの記憶から引き出さないといけない。だから……、」



 ウチは顔をジュニアの顔の間近まで一気に近付け、お互いの額をくっ付ける。こうしないと記憶を読み取れないから。サヨちんぐらいの達人ならちょっと記憶を読むだけならくっ付けなくても出来るらしいけど、ウチにはそこまでのことはムリ。



「ちょっ、お嬢さん(フロイライン)、それはあまりにも……。」


「アンタは剣の事を思い浮かべなさい! ついでにお父さんが剣を使ってるところも思い出して! そんで、こんな時に鼻血なんて噴いたらしょうちしないよ!」


「は、はい……。」



 ウチは記憶の読み取りに集中した。かなり集中力を高めないと、難しいから。次第にジュニアから剣のイメージが伝わってきた。これは……。

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