第90話 コレでフェアに戦えるな!
「よぉ、イグレス! ネグロスを倒していなくなったと思ったら、別の仲間を連れてきやがったのか?」
十字の剣を持つリーダー格のデーモンが言う。私やゲイリー君を目聡く見つけ、睨みを利かせている。デーモンにマークされているのは間違いなさそう。
「私とて、戦いばかりに生きているわけではないからな。友人に会うために本部に戻っていただけだ。戦を好む貴様達と一緒にするな、ヴァボーサ!」
「フン、一皮剥けば、お前も俺たちと大差はないクセによく言う! まあ、いい。おもしろそうな奴を連れてきやがったようだし、楽しめそうだ! 仇討ちだけじゃ物足りんからな。」
ヴァボーサと呼ばれたデーモンは、私を見て不敵に笑っている。もしかしたら、私の正体に気付いたのかもしれない。彼らも私と同じ闇の力を使うから、より一層感付きやすいと思う。ロア以外では私が一番特異な存在だから尚更。
「それよりも……フェアに戦えるようにしねえとな。遊びってのは楽しくやるもんだ。……オイ、ナビダッド、アレを頼む!」
「あいよ、任しときな、隊長!」
小柄なデーモン、テナガザルのようなデーモンが前に出てきた。両手で頭を覆うようなポーズをして、目を閉じ集中をし始めた。闇の魔力が大きくなっていくのを感じる。何か魔術でも使うのかもしれない。何が起きても対応できるように私は身構えた。
「ウキャアッ! ブリージョ・オスクロン!!」
突然、目の前が真っ暗になった! よくある例えじゃなくて、本当に真っ暗! 目の前の物が一切見えなくなった。周りからも動揺の声が聞こえてくる。周囲全体に同じ現象が発生しているみたい!
「コルタル・ディスコーマ!!」
暗闇の中、何か複数の回転する気配が飛来した。思わず身をかがめたものの、飛来する物を避けられたかどうかわからない。でも、何かおかしい。馬が急におとなしくなった。異変に動揺している内に、暗闇が晴れ渡っていった。
「……馬の首がない!?」
馬の異変の原因はこれだった。馬の首は鋭い刃物で切断されていた。あまりにも切れ味が鋭かったためか、馬は悲鳴すら上げずに絶命させられていた。暗闇の中、何らかの攻撃の仕業なのは間違いなさそう。馬は死んでしまったので仕方なく、私は馬から下りた。周囲のみんなも同様に馬を殺されてしまっている。当然、他のみんなもそうせざるを得なくなった。
「コレでフェアに戦えるな! 馬なんて使うのは面白くないだろう? どうせならお互い地ベタを這って戦おうぜ!」
「貴様ら! よくも!」
「おっと、怒るのはナシだぜ。俺らも仲間をやられて怒り心頭なんだからよ。お互い冷静に行こうや。当然、フェアに戦うんだから、俺たちルス・デルソルだけで戦うぜ! オイ、テメエらはその他の雑魚どもの相手してな!」
ヴァボーサを名乗るデーモンは周囲のデーモンの部隊を下がらせた。こんなことをするなんて、なんて大胆な! でも、これは自分たちの強さに対する自身の現れなのかもしれない。楽しむとさえ言っているので、そこは本気なのかもしれない。
「さあて、準備は整った。あとは誰が誰と戦うかだな? どうするか……、」
「隊長、俺にイグレスを殺らせてくれ! ネグロスさんの仇は俺が取る!」
「おう、そうだったな。じゃあイグレスは任せた。」
手長のデーモンはイグレスさんと対峙した。このまま、一人一人あてがって戦うつもりなのかな? ちょうど、こちらも人数は五人。
「じゃあ、俺はあの女をもらうぜぇ!」
「チッ、ヴァランシャ、またかよ! 相変わらず女をいたぶるのが好きな奴め!」
ずんぐりとしたオランウータンのようなデーモンに、私は目を付けられてしまった。ヴァランシャと呼ばれたそのデーモンは、私を見て舌なめずりをしている。嫌な寒気がした。気持ち悪い!
「じゃあ、ティージャ兄弟、お前らはそこの遊牧民達を殺れ。そいつらは俺らの部下どもを何人も射殺してやがる。お前らお得意のアレでそいつらを蜂の巣にしてやれ!」
「はいよ、任された!」
小柄なデーモンが大柄なゴリラのようなデーモンの肩に乗って、ウネグさんと力士さんのところに向かっていった。
「俺は残りモンをもらうか。リーダーってのはつれえな。」
「おう、やんのか、コラァ!!!」
「なんだ、結構イキがいいな。気に入った。せいぜい俺を楽しませてくれよ!」
リーダー格のヴァボーサはゲイリー君を相手にするみたい。大丈夫かな? リーダーということは相当強いはず。私自身が目の前のデーモンを早めに倒して加勢してあげないと、命が危ないかもしれない!




