第81話 笑ってはいけない! クルセイダーズ本部24時!!
「うへあっ!? なんかお花畑が見えるでヤンス!」
ウチは今、ワンちゃんに付き添って医務室にいる。運び出された後、こっそりついていったのだ。その方が中を色々見て回れると思ったからね。追いついて見てみるとワンちゃんはベッドに寝かされ、治療を受けていた。治療といっても痛みを抑える治療術を使ってもらっているだけ。でも、なんか大げさだ。魔力の無駄遣いな感じだ!
「ああ、そうなんだ? それならついでにお花畑の向こう側に行っちゃいなよ!」
「じゃあ、お言葉に甘えて……あっ!? なんか、ひいお爺ちゃんが手招きしてる……って、行っちゃったら、死んでしまうヤンスぅ!!」
ワンちゃんは急にガバッと起き上がった。覚醒した! 死のフチから帰ってきたようだ。でも、股間を押さえながら再びバタンと倒れた。
「危なかった! 危うく死ぬところだったでヤンス!」
「惜しかったなぁ! ちぇっ!」
「あっしを勝手に殺さないでほしいでヤンス!まだ死にたくないヤンス!」
「ええ~っ? 自分で汚らわしいモノを破壊して死ねたんなら本望なんじゃないの?」
「ひどい、ひどいでヤンス! あっしの立派なモノは汚くないでヤンス!」
「でも、あっても使い道ないでしょ?」
「しょぎゃわーーん!?」
ワンちゃんは奇声を上げて、再び気絶した。痛恨の一撃で大ダメージを喰らったようだ。
「あの……治療の邪魔をしないで下さい……。」
「てへっ! ゴメンナサーイ!」
いやー、ついついワンちゃんで遊びたくなったもんだから。おや? 誰か人が入ってきた。
「客人か? 見かけない顔だな?」
えらくゴツいオジサンが入ってきた。デカっ! 医務室の入り口にギリギリ入れるか入れないかぐらいの大きさ! 太ってる? いや、それもあるかもしれないけど、ゴツゴツしてもいるので物凄いマッチョだ! ウチらパーティーの新人ゴリラがガリガリ君に見えるくらいゴツい! 何、この人?
「ど、どうしてこちらに?」
治療術士の人が動揺している。周りの人達も一斉にかしこまっている。中には敬礼をしている人もいる。何事? この人、エラい人とかなんかなのかな?
「ウム、なにか訓練場の辺りで騒がしい気配を感じたのでな。様子を見にいこうと思っている。ここには途中立ち寄っただけだ。ここからも異質な気配を感じたのだ。」
異質な気配って、まさかウチらのことを言ってる? ていうか、異質なんて失礼な表現使うな!
「このお二人は勇者様のお連れだそうです。この犬人の方が訓練場で粗相を起こしたそうなので、治療しております。」
「ほう、これが勇者の連れか? てっきり、旅芸人と娼婦かと思うたわ。」
誰が旅芸人とか娼婦なんだ! ムキー! 失礼なオッサンだなあ!
「ああん? 誰が娼婦だ! このヤロー! ウチはインフルエンサーだ!」
「いんふるえんさー? なんだそれは最近の娼婦は名義を変えたのか?」
「だから! 違うって言ってんだろぉ!」
ムカついたから、足のスネを思いっきり蹴ってやる! どんなにゴツくても、スネは昔から泣き所って言われてるから、痛いはず! 失礼なオッサンは泣いてしまえっ!
「痛ぁあ!!!」
「なんだ? 何かしたか?」
なんで? 蹴っ飛ばしたウチの方が逆に痛いってどういう事? 蹴った感触もおかしい! なんか石みたいに硬かった! 岩か? 体、石で出来てるんじゃないの?
「はわわわわ!!!」
よく見たら、周りの人達がみんな青ざめてる! 石のオッサンを見てビビってるような?
「はっはっはっ! 娘、もしや私を蹴ったのか? たいした根性だな! 気に入った! 娼婦にしておくにはもったいないわ!」
「だから娼婦じゃないって言ってんだろ! クソオヤジ!」
「冗談を言っただけだ。貴様、神聖魔法や魔術の心得があるな? 奇天烈な格好をしてはいるが、それなりのセンスはあるようだ。」
「な、なんでそんなことがわかんの?」
「私ほどの者となれば、気配だけで相手の能力、力量が測れるものなのだ。私相手に素性を隠すことは不可能ということだ。」
見ただけでわかるって、そんなこと出来るなんて聞いたことがない! 当てずっぽうでたまたま当たっただけじゃないの?
「貴様、非凡な才能を持ち合わせているようだな? 我がクルセイダーズに取り立ててやらんでもないぞ。ん?」
「誰がクルセイダーズになんか……。」
何、いきなりウチを勧誘するだなんて! 例え、褒められたとしても絶対にやだかんね! こんな石みたいに硬いオッサンに勧誘されたなんて人に知れたら、一生の恥だ!
「まあ良い。それよりも勇者に会いに行くとするか。」
オッサンは背を向け、医務室を出ていこうとする。その後ろ姿を見たら……ハゲてる! 頭のてっぺん辺りから後頭部にかけた辺りまで、毛がない! ダッサ! ぷぷーっ!!




