第75話 噂には尾ひれ背びれが付き物です。
「ようやく辿り着いたな、この場所に!」
ハンバーグコンテストの翌日、本来の目的地である、クルセイダーズの本部へやってきた。大武会の直後に向かう予定だったが、エルの里帰りに付き合い、魔王やらの妨害もあったりで、随分と遠回りになってしまった。総長さんとやらがご立腹になってなければいいが……。
「しっかし、デカいでヤンスねえ! あちこちにある駐屯所とはスケールが大違いでヤンス。お城とか砦みたいでヤンス!」
とにかくバカでかい! 小さな町一つ分ぐらいあるのではないかという規模だ。訓練所や病院、資料館、刑務所などクルセイダーズが受け持っている色んな施設が一カ所に集まっている。大体、この都市そのものも通常の町の数個分の規模があるんだから当然かもしれない。故郷の都もこれに負けない規模だったのを思い出して、少しだけ懐かしくなった。
「あっ! 例の格好いい黒騎士さんがやってきたでヤンス!」
向こうから黒騎士…エドがやってくるのが見える。事前に駐屯所を通じて来訪を伝えていた。急に行っても門前払いされかねないので念のためそうしておいた。そしたら、たまたまエドも任務に一段落が付いて本部に戻ってきているということだったので、案内してもらえるという話になった。という事情からのご本人登場となったわけである。
「大武会以来だな、ロア。あれからさほど時間が経っていないというのに、更に逞しくなったように感じるのは気のせいか?」
「う~ん、何もなかったとは言えないかな? ちょいと思わぬ所で魔王と出くわしてしまったんだよ。」
ちょっとした寄り道のはずがかなりの大事になったのは事実だ。魔王の陰謀に巻き込まれた上、名家の屋敷が焼け落ちてしまった。しかも、処刑隊とかいう連中が出動していたので、クルセイダーズでも噂にならないはずがない。エドも何らかの形で耳にしているかもしれない。
「魔王に出くわした事をさらっと言ってのけた上、見事に無事生還してしてくるとは、何とも君らしい。並みの者ならば命を落としているだろう。対峙したのはどのような魔王だった?」
「蛇の魔王って本人が言ってた。なかなか実体で攻撃してこない、狡猾で厄介なヤツだった。結局最後は逃げられちまった。」
「蛇の魔王!? シャロット・アラン! 序列六位の魔王ではないか! よくぞ退けたものだ。」
エドが驚いている。ヤツは余程の大物だったようだ。魔王自身が言っていたとおり、大体半分ぐらいの順位っていうのは正しかったようだ。
「フフ、大したものだ。一方で私は序列七位の配下と苦戦していたのだからな。君にはますます差を付けられてしまったようだな。」
「いや、そんなことはないと思うぞ。蛇は全然本気を出していないみたいだったからな。」
エドの任務がどんなものかと思いきや、序列七位の子分と戦っていたなんてな。魔王軍の動きが活発になってきているというのは本当みたいだな。今後は俺たちの戦いもますます激しくなるかもしれない。
「我々は互いに激戦を生き延びたという事に変わりはない。こうやって再会できたことをありがたく思おう。ここでずっと立ち話をしている訳にもいかないから、総長の元へと向かいながら、道すがら話そうではないか。」
と言いながら、早速先頭に立ち、俺たちを案内する。
「へへ、総長さんをずっと待たせるのも悪いしな。どうせ、こんなところのエラいさんなんだから、すげえおっかない人なんだろ?」
ファルちゃんからもやべえ人物だとは聞いている。何でも、伝説の聖剣“十字剣”の使い手だと言うし。くぐり抜けた戦場も数知れず、二人の魔王を討伐した武勇伝もあるらしい。こんなん、勇者よりよっぽど強いじゃん。なんでそんな人が勇者やらないんだよ、って話だ。
「確かに多忙ではあるが、器の大きい方だ。流れている噂の大半は尾ひれが付いている。当の本人はそこまで大げさな人物ではないよ。」
大げさ、ねえ。そうとも限らないんじゃないかな? 梁山泊の宗家という例を知ってるからな。実際に戦ってみたら、噂以上の強さだったので、本当にキツかった。大体、そういう大物は人前で滅多に本気出さないから、そうなるんだと思う。そう考えると怖くなってきた。帰ろっかな……。




