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第47話 お次は遺産相続の手続きに入ります。


「……うう? ラヴァン様?」


「もう大丈夫だ。私は君の側にずっといる。君を守るために。」



 過去の記憶が融合し、エルはラヴァンの元へと向かっていく。ラヴァンも迎えに行くかのようにエルの元に駆け寄る。その間、エルは俺のことを一切見なかった。俺なんてまるで知らないかのように。



「ホホホ。意外や意外。なかなか思い切ったことをしたわね。見直したわ、お坊ちゃん。」



 ラヴァンがまさかの行動を取った。さすがに素直に負けを認めると思っていた。俺の考えは甘かったようだ。魔術師はみんなこんなことする人ばっかりなんだろうか? 人間不信になってしまいそうだ。



「これで終わりだ。私の目的の半分は達成された。あとはエルフリーデ様の遺産を取り返すのみだ。これは彼女の婚約者としての私の使命だ。」


「ホホホ。では遺産を取りに行きましょう。この婦人……ナドラが自身の記憶の迷宮に封印しているのよ。ナドラの記憶の中にお入りなさい。」


「なるほど、やはりそこにあったか。私の考えていた通りだ。私の力が不可欠な事も含めてな。……では行こうか、エレオノーラ。君が取り返したい物を取りに行こう。」


「はい。ラヴァン様。」



 エルはラヴァンの顔を見て、嬉しそうにしている。さっきまで俺の側にいた彼女とは明らかに態度が豹変していた。ラヴァンのことを昔から知っているみたいに、親しげな感じで接している。



「エル、待ってくれ!」


「何だ君は? 見ての通り、私は彼女の婚約者だ。君に邪魔される筋合いはない。敗者は潔く引き下がってくれ。迷惑だ。」


「勇者様……? 安心して下さい。私はラヴァン様と共に母の遺産を取りに行きます。お心添えはありがたいですけど、これは二人で解決しないといけない事なんです。」


「……!?」



 ショックだな。エルが俺に対して急に他人行儀になってしまった。俺との思い出は完全になくなってしまったのか? 偽りの記憶に上書きされてしまったのだろうか?



「ゆっくりしてはいられない。行こう。」



 ラヴァンは蛇の魔王……が操るオバサンの目の前に空間の裂け目を作り出し、エルと共にその中へ入っていった。



「ホホホ。これで終わりね、勇者。そして、エレオノーラも私の手中に収まったことになるわね。」


「どういう意味だ?」



 手中に収まっただと……? いったいどういう意味なんだ? そもそも、蛇の魔王の目的はどこにあるのだろう? もちろん俺を倒すのが目的なんだろうけど、やけにエルにこだわっているようにも見える。もしかしたら、真の目的はそっちなのでは……?



「勇者、あなたは悉く私の計画を邪魔してきた。今回だけではないわ。それよりも前からよ。全てはあの娘の……、」



 その時、異変が起きた。蛇の魔王の頭上から何者かが現れたのだ! 無駄にデカい図体、タマネギっぽい髪型……そう、ゲイリーだ! ゲイリーが突如現れ、蛇の魔王の体の上にのしかかる形になった!



「ううおあっ!?」


「問題ないッス! 俺っち、体の丈夫さが取り柄なんで! 腕立て、腹筋、スクワット毎日かかさないんスよ!」



 相変わらず場違いな事を言っている。誰も聞いてねえよ、そんなこと。それよりも今までどこにいたとか、どうやってここに来たか説明しろよ……。



「この機会は逃さぬ!」



 黄ジイが倒れている蛇の魔王の元へやってきて、攻撃を仕掛けた。間一髪、黒い影がオバサンの体から抜け出ていった。黄ジイもそれに気付き、途中で攻撃をとりやめた。



「ホホ、全く隙も油断もありはしないわね! 危ないところだったわ。とんだ邪魔が入ったものね。」



 黒い影は蛇の姿になった。オバサンの体から逃れたということは、黄ジイの攻撃に脅威を感じたのだろう。



「もうよいわ。ある程度私の計画は成功した。後はあなた達を始末するだけ。ただし決着は外でつけることにしましょう。……援軍が近付きつつあるのでね。」



 援軍? 魔王軍を呼び寄せたんだろうか? それが本当だとしたらマズいな。とか考えているうちに蛇の魔王は姿を消した。これでヤツの言うとおり、外で決着をつけることになってしまった。



「ロアよ。早く、二人の後を追うのじゃ。魔王の言う通り、災いが近付きつつあるのは間違いない。早急に決着をつけてくるが良い。」


「でも、俺が行ってもエルに拒絶されそうだぜ?」



 彼女の記憶は書き換えられた。俺のことは憶えているようだが、俺との繋がりがなくなったに等しい。俺は彼女にとってその他大勢になってしまっている。



「何を弱気なことを言うとるんじゃ。こころのそこから思ってはおらぬ癖に。信じておるんじゃろう、あの娘を?」



 確かに気がかりなことはある。エルの様子が少しおかしかった。態度や言動はラヴァンを信じているようだったが、若干、目がうつろになっているように見えた。もしかしたら、彼女の心の中では、偽りの記憶と真実の記憶がせめぎ合っているのかもしれない。獣の魔王になっていたときと同じように。



「そうだな。彼女の記憶を呼び起こすのは俺の役目だった。……じゃあ、行ってくるよ。みんなはいつでも脱出できるようにしておいてくれ。すぐ戻ってくる!」



 俺は異空跋渉でオバサンの記憶の世界へと飛び込んだ。このまま、ラヴァンの思い通りにさせるわけにはいかない。エルの記憶を必ず呼び戻すんだ!

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