第315話 伝説の竜騎兵
「フン、意気揚々と勇者に挑み、無残に敗れ去った負け犬風情が私に何の用だ?」
「確かに私は勇者に敗北した。だが、我ら二人の戦いに対して口を挟むのは、実際にあの場にいた者だけだ。部外者は語ることを許さぬ。」
ヴァル・ムングは語りながら、俺やファルに視線を送っている。あの時、あの場にいた当事者だからなのは言うまでも無い。
「フハハ! 余程、負けたことを詰られたくないと見える。世の中、結果が全てだ。負けという烙印は一生付き纏う物だぞ。」
「結果しか見えぬ者に語る資格無し。あの戦いは我が誇り。私はあの戦いを乗り越え更に強くなったのだ。」
このちょっとしたやりとりでヴァルの変わり様が良くわかる。ヴァルもかつては学長と似たり寄ったりの思想の持ち主だった。俺との戦いで性格は様変わりしたようだ。なんか柔軟になったというか、他人を認める性格になったと思う。でもそれ以上に……、
「この場に来て私の行いを妨げたということは死を意味する。覚悟はしておるのだろうな?」
「貴様の方こそ神などと名乗った罪は重いぞ。私とて神になろうとは思ったことはない。私は愚かな神気取りの男を狩りに出向いたのだ!」
ヴァルから肌に刺さりそうなくらいの恐ろしい殺気が放たれ始めた。竜と人の混じった気配を纏わせながらドンドン強大に膨れ上がっていく! 前にあったときも凄かったが、あの時よりも数十倍は強くなっているような気がする……。もうコイツには勝てる気がしないよ……。ちょっと、フッって吹かれただけで殺されてしまいそうだ。
「何!? その姿はまさか!?」
ヴァルの体には徐々に鎧、竜鱗の鎧装が形成されていったのだが、それだけで変化は止まらなかった。顔の部分もスッポリと兜に覆われたと思ったら、それがドラゴンの顔のように変形した! まるで竜の人、竜人みたいになったのである!
「そう、これが“竜騎兵”形態だ。伝説によれば古代人の戦士は誰もがこの力を振るえたそうだな?」
「伝説の竜騎兵……。だが、神の前では誰であろうと虫けらと大差ないわ!」
二人の激突が始まろうとしていた。恐るべき力を持った者同士の戦い。神話とかの場面でしか見られなさそうな戦いが目の前で起ころうとしている!
「勇者よ、この男の影は私が押さえつけておいてやろう。貴様は奴の本体を見つけに行くがよい。」
「本体なんてどこに? その前に俺は絶って歩くことも出来ないぜ……。」
探しに行け、だなんて無茶を言うなよ。ただでさえ、すぐに死にそうなくらいなのに、いけるはずがない。せめて、五体満足なら何とかなるんだが……。
「相変わらず情けのない勇者だこと。ヴァル様の方がよっぽど勇者に相応しいわ。」
急にネットリとした嫌みが聞こえてきたと思ったら……サヨちゃんの宿敵、邪竜レギンじゃないか! 急に姿を現したからビックリした!
「勇者だったら“|勇気の共有《Cling Together》”を使ってみなさいな。歴代の勇者の中でも限られた者、勇者王とあと一人くらいしか行使した者はいなかったわね。ヴァル様と並ぶつもりがあるならそれぐらい行使してみなさいな! でなければアナタを喰ってしまうわよ?」
「ひーっ!?」
く、喰われる! おいしくないよ、俺? というか“勇気の共有”って何? 初めて聞いたよそんな能力! サヨちゃんでさえ一言もそんな話してなかったよ? どうやってやるの? やったら何が起きるの? それすらわからんのに勇者王と同じ事しろってのは無理がありすぎるぞーっ!
「ギャォォォォォォォォン!!!!!」
レギンは本来の竜の姿になった。うす紫色のウロコを持った、恐ろしい姿をした竜だ。本気でやり合うつもりらしい。同じ竜とはいえサヨちゃんとは随分と印象が違う。レギンは見ているだけでも寒気がしてくる。冷気の魔法の使い手らしいから、それも影響してるのかもしれない。
「行くぞ、レギンよ!」
俺のことは放っておいてヴァルとレギンは学長に戦いを挑もうとしていた。後は自分で何とかしろって事か。まあそうだな。学長もいつまでも待ってくれるわけないし。そう思っていたら、ファルが俺に話しかけてきた。
「おい、相棒! 俺は少しだけだがその逸話を聞いたことがある。“|勇気の共有《Cling Together》”ってのは要するに仲間で能力を共有する力なんだ。もっと砕いた言い方をすれば、みんな全員に勇者の力を与える能力なんだ!」
「何だよ、そのチート能力!?」
「チートでも奇跡でも何でもいい! 俺達が勝つにはそれしか手が残ってないんだ! お前なら出来る! 俺が言ってるんだ! 天下の大バカ野郎の相棒の、俺が言ってるんだぞ!」
「そう! ファルさんの言うとおり、出来るわあなたなら! 能力が共有出来れば体の傷も治せるはず! 私の能力も使えるはずだから!」
能力の共有……そうか! それが出来れば魔王の復活が使えるってワケか! そうなれば千切れた四肢も元通り、あばらとかの骨折も治せるはず! ……でもどうすれば?
「多分だけど、みんなと心を一つにするのよ! まずは私と心を通じ合わせましょう!」
エルは俺の胸元に両手を置き目を閉じて、祈りを捧げるかのような仕草をした。本当なら手を取り合ってやるべきなんだろうけど、四肢のない今の俺にはこれがせいぜいだと思ったのだろう。今出来る最善を尽くすしかない!
「……歴代の勇者達よ、俺達に力を貸して下さい!」




