第313話 手足はなくとも、まだ戦える!
「ううっ……あんまりだよ…こんなこと……。」
「この野郎! 絶対に許さねえ!」
俺がダルマ状態にされる前から、エルとファルは行動を制限されているみたいだ。俺が金縛りにされたみたいに。エルが俺の手足を回収出来たのは遠くへ吹き飛ばされたからでもある。おそらく学長はあえて取りに行ける状態にして、エルを弄んでいるのだろう。このままじゃ済まさない! こんな横暴をいつまでも許すわけにはいかない。
(バンッ!!)
「ぐっ!?」
その時、俺は頭を踏みつけられる感触がした。姿は見えないが、学長に決まっている。影というか風の姿でもそういう事が出来るとは器用なモンだな。さすが神様、ってか。
「今この状況で試してやろう。勇者の力を振るってみせよ! 奇跡とやらが神にどこまで対抗できるか実験してやろうじゃないか。」
無理難題を押しつけつつ、俺の頭をグリグリと地面に押しつける。ここまで意地の悪い敵は初めてだ。魔王、魔族でもここまで酷いヤツはいなかった。むしろ、彼らの方がまともとさえ思えてくる。神様っていうより、邪神、悪神と呼んだ方がしっくりくる。それをわかってんのかな、ご本人さんは?
「ほれ、早くしろ! 私はせっかちだから結果を早く求めたがるのだよ。やりにくいのであれば私が手伝ってやろう!」
「あっ……きゃあああっ!!!」
学長は金縛りで捉えた上でエルの体を宙に浮かせた。自分ばかりに標的が向くのかと思っていたら……今度はエルにまで危害を加えようというのか!
「貴様だけを苦しめただけでは、あまり苦痛を与えられないことに気付いた。だから、貴様の仲間、伴侶を傷付ければどうなるのかな? 一般的にはその方が有効らしいじゃないか。絆とか言う綺麗事というものは!」
(ザザザザザザザザンッ!!!!)
「うわぁぁぁぁぁっ!!!!」
「エルーーーーーっ!!!!!!!」
彼女は無残にも学長の起こした無数の鎌鼬で全身を切り刻まれた。当然の事ながら大量の出血も伴っている。俺の時とは違って出血も起きるような傷付け方をしている。
「ほう! さすがだな。魔王の欠片を受け継いだだけのことはある。並みの人間なら即死するほどのダメージを与えたのだがな。やはり、魔の力、闇の属性は興味深い物がある。次の研究対象にするとしよう。」
「やめろ! エルを傷付けるな! 傷付けるなら俺だけにしてくれーっ!!!」
(ザンッ!!)
「ううっ!!!」
「ああっ!? なんてことを!!」
学長はあろうことか、女性にとって大切な顔に対して傷を加えた。右頬に大きな切り傷。女性に対してこの仕打ちはあんまりだ! 鬼畜にしても度が過ぎている!
「何故、このような事をしたかわかるか? 貴様が口答えばかりで奇跡を起こさないからだ。当然の仕打ちだ。どれ、もっとやりやすくしてやろうか?」
「うあっ!?」
今度は左目をまぶたごと縦に切り裂いた! ただ傷を付けただけでなく、目まで傷付けた!
「やめろぉ!!!!」
「だったら、早くしろ。早くせねば、この女の顔は潰れてしまうだろう。そうさせたくないのなら、結果を出せ。この世は結果が全てなのだ。過程がどうあろうと結果が出なければ意味はないのだ!」
何か手はないのか? 実際、今は手どころか足さえもない。残っているのは体と頭のみ。ここから何かしないといけない。何も無くともどうにかしないといけない! でないと俺は……エルのパートナーとしての資格はない!
「うう……気にしないで、ロア……。私は簡単には死なない。死ねない体だから……。こんな傷くらい“魔王の復活”の力で何とかなるから……。」
確かにわずかだが全身の傷が再生し始めているのがわかる。彼女はまだ希望を捨てていない。俺と一緒に戦ってくれているんだ!
「そういえば……、」
俺はふと視線をあらぬ方向へと向けた。その視線の先には俺の剣が落ちていた。剣はほんのわずかに光を帯びていた。健気にも俺に居場所をアピールするように、諦めるなと言っている様にさえ思えた。
(俺はまだ戦える。まだ戦う手段はある!)
そう思った瞬間、剣は俺の近くまで引き寄せられるかのように移動してきた。でも、どうする? 手がないんじゃ剣は握れない。
(そうだ! 掴むだけなら、まだあるじゃないか!)
俺は剣を掴んだ。手以外の部分で! まだ、口っていう物が残っているんだ! これなら、なんとか剣を使える! ここからなら、なんとでもなる! 学長に手痛い反撃を入れてやれるはずだ。
「むっ!? いつの間に!? 剣を回収していたとは! だが、どうするね? 私に足蹴された状態でどう動くのかね?」
俺は腹筋、背筋の力を振り絞り、寝返りをうつ時の要領で回転を加え剣を振るった! 手足はなくとも、究極奥義は極められる!
(天破陽烈八刃斬!!!!)
剣を加えているため、口には出せなかったが頭の中で全身全霊を込めて叫んだ! この願いの一撃が学長の本体に届くように!




