第308話 暴かれたトリック
――――少し時は遡る。弓兵のゴーレムと戦っている最中。この時にゴーレムの防御法を暴き、クソ親父との決戦に使うための策を準備した。
俺はヤツらの防御能力のトリックを暴く直前のところまで来ていた。だが、敵側も俺を追い詰めるための手筈を整えつつあった。二体の弓兵は連携でそれを確実な物にしようとしていた。
「もう少し余裕は残しておきたかったが、そういうわけにはいかなくなってきた。」
手にはアストラル・ブレイド、“風切り羽”を生成した。両手分、二刀流で挑むつもりだ。生成時の消耗は大きめだが、下手に魔術で矢を落とすよりは魔力の消耗を抑える事が出来るはず。
「さあ来な! 俺を針鼠にするのが先か、俺がテメエらをバラバラにするか、どっちが先かな?」
二体の弓兵は俺に向かって多数の矢を放ち始めた。俺は剣と矢逸らしの魔術を駆使しながら片方のゴーレムへと間合いを詰める。わざと片方の射線に重なるようにしながらだ。こうすれば手前側の一体を盾代わりに出来るからだ。同士討ちにはならなくとも、矢を防ぐのには使える。
「ありがとうよ。矢を防いでくれて。これで一体ずつの相手に専念できる!」
剣の間合いまであと一歩と迫った。それを迎撃しようと、ゴーレム達は矢の雨あられを浴びせてくる。よくもまあ、矢の装填が早く出来るものだ。接近戦専用なら容易に切り刻まれていたかもしれない。
(バンッ!!!)
その時横から炸裂音が響いた。気配を察知し、そちらを向く。何と矢が軌道を変えて飛んでくるではないか! 辛うじて到達する直前で防いだ。
「クッ!? 特殊矢まで用意してやがったか!」
クルセイダーズ屈指の狙撃手であるウネグから聞いたことがある。途中で軌道を変更できる特殊な矢が存在しているということを。魔術を施した矢で、あさっての方向に撃ち、標的の目を欺いた上で射貫くことが出来るという。障害物越しの攻撃も可能だそうだ。ヤツ自身は邪道だと評して、通常の矢を使うことを好んでいたようだが。
「ちいっ! 間合いを離されたか!」
特殊矢に気を取られている間に、間合いを離されてしまった。ヤツらは連携にも長けている上に特殊矢を駆使して、味方を盾にする敵の動きにも対処してくる。流石に並みの人間では刃が立たない戦闘力を持っている。
「正確さや肉体のスペックでは、人間に勝ち目は無いんだろうよ。でも作りもんな以上はグリッチには対応しきれないだろ?」
再び追いつき、最初の一撃、剣での突きを喰らわす! 当然これは黒いモヤで躱された。二撃目、今度は反対側の剣で横になぎ払う。これもモヤに防がれた。
「じゃあ、これはどうするかな?」
本命の一撃を出す。腰の部分に当てると見せかけ……相手に触れるか触れないかの距離感で突きを繰り出した。当然これもモヤが発生する。問題はこれからだ。
「この瞬間、剣を引くような動きを見せたらどうなる?」
相手に当てに行くのではなく、すれすれを這わせた上で、相手とは反対側に剣を引いた。
(ザンッ!!)
相手の体は腰から横に両断された。相手の防御法を逆に利用してやったのだ。あのモヤは転移魔術の応用で防御フィールドとして機能させていることに気付いたのだ。攻撃のベクトルを変更し、自分たちに向かわないようにしていたのだ。エア・スラッシュをバツの字に放った時の挙動からそれを判断した。
「効くとわかりゃ、速攻で行動不能にしてやる!」
両腕を切り落とし、まだ自立していた下半身を腰から縦に両断して行動不能にした。攻撃手段を思いついたのは、相棒がガンツの防御法に対して行った行動をヒントにしている。
「待ってな。相方と同じ目に合わせてやるから。」
残ったもう一体は猛然と攻撃をしてきた。意地でも俺を接近させまいと、多種類の特殊矢を放ってきたのだ。途中で鏃が炸裂し細かい破片をぶちまける物、小型矢を多数束ね、途中で分散させる物など通常では対処困難な物ばかりだった。
「小細工は無駄だぜ! 風の魔術師相手にそういうのは悪手だ。弾が小さい分、相殺も楽に行える!」
無数の弾を放つことで回避困難な状況を作っているようだが、俺達風の魔術師には無駄な行為だ。風圧の障壁を展開すれば対処は容易だ。その中で一本だけ矢が飛んできた。
「それなら、俺に対しては効果的だな。でも、もう遅い!」
最後に放ってきた矢が頬を掠める。魔術無効の特殊コーティング矢だろう。もっと早めに使われたら、負けていたのは俺だっただろう。
「相手が悪かったな。俺はデーモンとか人外の化け物と戦う事が日常茶飯事なんでな。並外れた相手には慣れてるのさ。」
残る一体も最初のと同様行動不能に陥らせた。止めを刺さなかったのには理由がある。解析して後の戦いに備えることが出来ると思ったからだ。タルカスもだが……その後にはもっととんでもないヤツが待ち構えてるからな。備えあって憂い無しってことだ。




