第306話 遮断《イクスクルージョン》
「さ、侍!?」
俺とファルによって作り出された一瞬の隙。それは俺に対して放たれた一撃、その瞬間が攻撃を加えるチャンスとなったのだ!
「貴様、いつの間に……いつの間に!? ぐふっ!」
侍の刀に垂直方向から貫かれても学長は生きている。それを逃すまいと侍は刀を放さず、背中に取り憑くような形を保っている。学長の口からは血が大量に流れ出ている。普通は即死していてもおかしくない状況なのに。
「拙者は機を窺っていた。教授殿から教わった蜃気楼の術を用いた上で潜んでおったのでござるよ!」
つまりは早い段階でここまで戻ってきていたのか! 遠くに飛ばされた上で速攻戻ってきたのか、飛ばされたフリをして近くにひそんでいたのか。どっちもあり得そうな話だ。この男は抜け目がない。卑怯すれすれの戦法を多用するのがコイツの真骨頂だ。
「小癪な! 野蛮人風情が調子に乗るな! スクウィーズ・ストーム!!」
「ぬううっ!?」
学長は侍の顔を掴み、侍を軸にした竜巻を発生させた! 見る見るうちに侍の体には無数の切り傷が発生し、上空へと巻き上げられた。手にしていた刀から手が離れる程の威力だった!しばらくして落下し、侍は地面に叩きつけられた。
「うぬうっ! 術士の割に頑丈なものよ。偉丈夫であろうと刺し貫かれれば、絶命必死なのであろうが……。」
侍はゆっくり立ち上がりながら、学長の異様な生命力に対しての違和感を言う。確かにおかしい。侍の一撃の前に俺の与えた傷もあるはずなのだが……すでに出血は止まっている。傷はそのままだ。再生したわけでもなさそうだ。
「貴様らとは違うのだ。ただ肉体が損傷したに過ぎぬ。損傷しただけで動けなくなる貧弱な貴様らとは違うのだ。」
肉体がダメージを受けただけ? それだけでは済まないはずだが? 致命傷を受けているのに平気な顔でいられるのには、どんな人間にも限界はある。なんだろう? 自分の体の事を他人事みたいに言うのは違和感がある。何か秘密があるに違いない。それを暴けばダメージを与えられるかもしれない!
「じゃあ、いくら壊してもオッケーてことね!遠慮無く、泣いたり笑ったり出来ないようにしてやる!」
「簡単にさせるとでも思っているのか? 無風や風読みだけが私の全てではないと証明して見せよう!」
傷付いた侍を残して、俺とファルは学長へ一斉に飛びかかる。風読みを使わないのならチャンスはあるはず! 別の対策をしてくるなら、それも破ってみせる!
(ドォン!!!)
「ぺごっ!?」
「クッ!?」
接近する途中で何か壁の様な物にぶち当たった。俺は真正面からぶつかり、奇声を上げながら飛ばされてひっくり返るハメにあった。ファルは目前で気付いて、ダメージは最小限にしたようだ。
「“遮断”。貴様らは私への接近すら許されない。野蛮な行いは私の目の前ではあってはならぬ事なのだ。」
今度は近寄らせないってか? ホントに禁止とか好きなオッサンだな! 他に没収、封印みたいに相手には何もさせないクセがあるようだ。器が狭い人の典型例だな。
「痛ってて……、立ち入り禁止だってさ。どうする?」
「さあな。脱法策でも考えるとするか。ようは近づかなければ良いんだ。それ以外はお咎め無しなんだろうよ。」
ファルと冗談を交わしつつ、後ろにいる侍に目で合図を送る。ヤツも俺の意図を理解したようでニヤリと笑い、手元に新たな刀を生成した。元のヤツは学長に刺さったままだ。侍は意図的にそのままにしているのだろう。それをこれから有効活用するつもりだ。
「さーて! 上からならどうかな!」
「試してみな。俺が風を送って高く飛ばせてやる。」
峨龍滅睛の要領で俺は高く跳躍した。もちろんそれだと飛距離が足りないのでファルが援護してくれた。俺の奇策に乗ってくれたようだ。
「ちょあーっ!!」
「無駄だ。上からだろうと下からだろうと結果は同じだ。馬鹿者め。」
(バイーン!!)
「うわぁーっ!?」
まるで弾力のあるベッドに飛び込んで弾き飛ばされるみたいに吹き飛んだ。そのままの勢いで学長の背後へ落下した。
「勇者殿でも敵わぬか。拙者も“壁”に挑戦すると致そう。」
侍はファルの横まで進み出て、刀を構える。刀を顔の横で垂直に構える姿勢だ。刀にはすでに雷光を纏わせている。間違いない。あの技のセットアップだ!
「雷光引力波!!」
雷光が学長に向かって伸びていき、刺さったままの刀まで到達した。コレをやるために刺さったままの状態を維持していたんだ。予想通りだ。散々喰らった事があるからこそわかるんだよな。
「なるほど、磁力か。だからといってこんな事をしても無駄だぞ。」
「では双方向からであればどうなるかな?」
学長に刺さった刀の柄から俺に向かって雷光が伸びてきた。それに呼応して剣を左手に持ち義手を上に掲げる。
「お楽しみはこれからだぜ!」
「無駄なことを。」
学長を倒す準備は整った。侍が武者人形との合わせ技で使っているアレを俺とのコラボで実現するとは思わなかった。これは決めるしかない!




