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第302話 無風《フェルマータ》


「乱気流か。所詮それは“風”の持つ一面でしかない。私もかつて“嵐を操る男”と呼ばれた物だが、空間に存在する気流を自在に操る事こそ風の魔術師の神髄だ。」



 ファルと学長の見えない戦いが続いてしばらく経つ。互いに風の魔法を繰り出し相殺し合っているようだが属性が属性だけに目に見えない。たまにそよ風とか突風が流れ弾のように吹き付けてくるが、それぐらいしか戦いの余波は感じられない。ましてや、俺みたいに魔法がからっきしダメな人間にはサッパリわからない。殺気が複雑に混線してるくらいの気配くらいかな、俺にわかるのは。



「貴様にこれが出来るか? “無風(フェルマータ)”。」


「……!?」



 何か空気がピンと張り詰めたような感覚に襲われた。というか、風が完全に止まった。こんなのは初めてだ。風を凌ごうと、建物とかに入ったって、隙間とかが微妙にあるからどこかしら漏れ入ってくるものだ。今は屋外、周りにはほとんど障害物のない場所だというのに、完全に風という物がなくなったのだ。



「エア・スラッシュ! エアリアル・スティンガー!」



 ファルは魔法を次々と放っているようだが、何も起こらない。魔力の高まりと放出される気配は感じられるが、効果が発生しない。完全に風がボイコットを起こしたかのように何も起きなかった!



「私の意で風は完全に停止した。だからこそ何人たりとも、風は起こせぬ。私の許可が下りなければ、そよ風すら発生しない。」


「くっ!? クソッタレ!」



 ファルも悪あがきをやめて、次にどうすべきかを考えているようだ。ここは俺の出番じゃないか? 得意の魔法が封じられたんなら、俺の剣術で対抗するしかない。まずはこの技を食らわせてやる!



「落鳳波!!」



 離れた所にいるのでまずは牽制代わりの斬撃を放つ! ……放つ? あれ? 放ったよな? 剣は間違いなく振った。でも何も起きてない。



「無粋者め。何であろうと風は起こせぬと言ったはずだ。衝撃波を巻き起こしたつもりなのだろうが、風であることには変わりない。私の許可無く風を起こすことは許されぬのだ。」



 うそーっ! 落鳳波まで封じられた! 魔法じゃないよ? 剣術だよ? 何も起きないってありかよ! 別に属性なんか付いてないのに。却下されるってどういう事?



「じゃあ、直接斬りかかるまでだ!」



 遠当てが効かないだけだ。接近戦に持ち込むしかない。さっきの真空で圧殺する魔法が恐いが、動きが読まれてたから、喰らいそうになっただけだ。読まれにくい攻撃で仕掛けるしかない!



「有隙の征!」



 果敢に攻めて隙を作るしかない。相手は魔術師だ。接近戦の対処法は少ないはず。相手がいくらとんでもないヤツでも、長時間は持ちこたえられないだろう!



「割と良く動くな、学長さんよ?」


「さて、どうしてなのか、わかるかね?」


「……峨嶺辿征!!」



 有隙の征で連撃をして、不意に跳躍してからの峨嶺辿征。これに反応できるヤツは戦士でも滅多にいない。……いないはずだが、コレも躱された。しかも、最低限の動きで、だ。



「貴様の動きは手に取るようにわかる。例え目を閉じていてもわかるぞ。」



 馬鹿な! 魔術師に俺の気配が読めるとは思えない。しかも、この男は武術を馬鹿にしているのでそういう鍛錬をやっているとは到底思えない。何かトリック的な物があるはずだ!



「これならどうだ! 霽月八刃!」



 魔法で障壁の様な物を作って防御しているのかもしれない。なら、それごと破壊してぶった斬る! しかし、これも虚しく空を斬った。



「得意の秘剣とやらも当たらなければどうと言うことはない。私を凡百の魔術師共と同じように考えないことだ。」



 そうだろうさ! どんな大技でも当たらなきゃ意味がない! さっきから空振りばっかりだ。空を斬る、空気を斬っているだけだ。……ん? “空”を斬る? ってことは、空振りというか攻撃の時は相手だけじゃなくて、空気も斬ってるって事になるよな。それはつまり……、



「おい、相棒、そいつは風を読んでお前の攻撃を躱してやがるんだ。体を動かしただけでも、わずかに風は発生する。その流れを読み取ってお前の攻撃の軌道を見切っているんだ。」


「あーっ!? 自力でわかりかけてたのに答えを先に言うなよ! いいとこだったのに!」


「そりゃ悪かったな。まあ、お前にしちゃあ、よく考えたな。このまま、繰り返してくたばると思ったから先に言った。」


「チクショー!」



 くそう! いいところを持っていかれてしまった! トリックを解き明かしてドヤってやろうと思ったのに! でも、正解だったからいいか。とりあえず、トリックはわかった。魔術師なりの躱し方があるんだな。



「敵の動きは全て風が教えてくれる。これが風属性魔術の極意、“風読み(バンデルオーラ)”だ。私の躱し方がわかったとはいえ、貴様らが私を傷付ける事など出来ん。何をしようと無駄だ。」


「そりゃどうかな? 無風でも風を起こすのが俺達、タービュレンスだ。何をしても動かないならテコでも何でも使って動かしてやるさ。」



 ファルは手に風の剣を出現させた。しかも二刀流。魔法が封じられた今、学長を攻撃する手段は武器での攻撃しかない。二人がかりなら、なんとかなるかもな!

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