第295話 さて、誰の差し金でしょうか?
「お前、魔王軍の差し金だったのか? それになんでこの鎧にガノスのコアが使われていることに気付いた?」
「その前にぃ~、人にシツモンするときゃ、一個だけにしろ、と教えてもらわなかったのかぁ?」
目の前の筋肉ゴリラはまるで人が変わっていた。今までは愚直な馬鹿にしか見えなかったのだが? 今も言動は狂っているが、話し方の傾向が違う。まるで馬鹿を装った狂人だ。
「魔王軍? 誰の配下か特定できないんなら、邪推するのやめてくれるぅ? 魔王軍全体だって、仲良しこよしじゃないんだから、適当なこと言うなよなぁ~。」
「しらばっくれるつもりか? だが、コアの件は誤魔化せない。ガノス死亡の事実はオレ達ドラゴンズヘヴンや魔王軍しか知らない情報のはず。何故知っている?」
これは言い逃れできないはずだ。ガノスはたった一人で要塞に乗り込み、ヴァル様に返り討ちにされた。おまけにデーモン・コアも無傷で奪取されたとあっては魔王軍も黙ってはいないはずだ。一人の魔王が屈辱的な敗北を喫したのだから。
「だって~、匂いでわかるんだよなぁ。アイツくっさいもん! 獣臭ぇのさ。序列下位の魔王にありがちなんだけどさぁ、牛とか虎もくっさかったから、死んじまってせいせいしているよ。」
「幹部クラスがやられたというのに随分な言い草だな。その割には仇討ちか? 意味のわからん奴め!」
「でも、なんか、口実ってのは必要じゃん? これが勇者お得意の友情パワー、なんつーてな!」
ゴリラ野郎は前傾姿勢で突進を仕掛けてきた。このままオレとの決戦に挑むらしい。何の変哲も無い突進に見えるが……これは突き技だ!
「墓穴爆破衝!!」
(ガゴォォォン!!!!!)
「ぐぐっ!?」
これは勇者が使う奥義の一つだったはず。似てはいるがあまりにも力押しの攻撃だったため、剣で受け止めるのはそこまで困難ではなかった。ここから手痛い反撃をお見舞いして……。
「爆!!!」
(ドゴァァァァァン!!!)
反撃を見舞おうとした瞬間、至近距離で爆発が発生した! 使用者本人をも巻き込みかねない爆発だ!この程度の爆発ならアーマーに傷一つ与えることは出来ない。だが、これの狙いは攻撃ではない! ヤツも爆発と共に姿を眩ましていた。
「厳龍爆睛ぇぇぇい!!!!」
真上から気配がした。この技はオレ自身も喰らったことがある。真上に跳躍してからの奇襲、加えて落下により威力を増す技だ。見た覚えのある技なら対処は容易だ!
「そんな、見え見えの奇襲が通用するかよ!」
オレは真上からの振り下ろしを真上に向けての突きで応酬する! 切っ先が相手に触れたと思った瞬間、相手の姿は消えていた。
「ばぁかめぇ! 爆撃の刃!!」
(ドゴォォォォォォォン!!!!!!)
真後ろから強烈な一撃を食らった! 真上に集中していたため、完全に無防備になっていた。防御が間に合わなかったので、背部に展開していたフライハイ・ウイングが完全に破壊された。兜のスクリーンにも使用不能の警告が表示されている。
「これで自慢の飛行能力が使えんなぁ! これで五分だなぁ。いや、俺っちの方が有利かな?」
「うるさい! オレを嘗めるな! これ以外にもオレの戦い方はいくらである!」
デモンズ・テイルを展開させヤツを横方向からなぎ払う。剣よりは威力は劣るものの、剣よりも軌道が読みにくく回避が困難なはずだ。慣れていなければ、相手にとっては初見殺しにもなり得る武装だ。
「鞭かぁ! いいじゃないか! 俺っちをゴリラに見立てるんなら、ちょうど良い武器じゃないか? でも、調教しきれるかな? 俺っちは凶暴だぜぇ!」
「ふざけやがって! お望みなら猿回しにでもしてやるよ!」
次第に複雑な軌道を加えて攻撃していく。それでもヤツは戯れるように、特異な動きでテイルを躱す。掠りさえしない! ただの筋肉ゴリラな見た目からは想像できない、柔軟な動きをしている。
「知ってるかぁ。この動きは柳の木の動きを参考にしてるんだぜぇ? 風離柳然って技だ。習得経路は秘密だ。誰から教わったんだろうねぇ?」
データにない技だ! ヴァル様やコタロウからは聞いたことのない技。技の名前からすると東洋の流派の技なのだろうが、どこから入手したのだ? ヤツはオレ達の未知の技を他にも知っているのかもしれない!
「デモンズ・ファング!! これは避けられるか!」
デモンズテイルは左腕に仕込まれているが、右側には三本のかぎ爪、デモンズ・ファングが仕込まれている。展開すればそのまま格闘武器としても使用できるが、追従剣としても使用できる! 一部のクルセイダーズ騎士共が使う武器だが、これは三本同時に使用できる。
「数を増やしたところで、風に揺れる柳の木には無力なモンだ。」
「柔な木風情にオレの攻撃が凌げるかよ!」
一斉に多方向から攻撃を加える。テイルを囮にファングを死角から襲わせ回避不能に持ち込む! これなら確実に八つ裂きに出来る!
(ガキ!! ガキ!! ゴギィン!!!)
あり得ない光景が広がっていた。テイルは腕に巻き付いているが、ファングの全てが、左右の腕、指に挟んで受け止められ、最後の一本は口でくわえて防御していた。
「おひいな(惜しいな)。ずぅわんねんですた(残念でした)!!」




