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第289話 脅威のフェイタル・ギア


(ドォン!!)



 突然の破裂音と共に、爪の付け根から何かが飛び出てきた。白く光る何かが見えたとき、俺は横に顔を逸らした。体ごと躱すには遅かったからだ。そう考えている間に銀色に輝く槍の様な物が顔の横を通り過ぎていった。



「チィッ!? 躱しよったか! 勘の良い奴め!」


「槍? いや、杭か? こんな物を仕込んでたのか!」



 一旦仕切り直すため、タルカスの爪を剣で弾いて、飛び退く。遠目に見てみれば爪から飛び出してきた杭の長さが良くわかった。肘の部分から突き出ていた棒の正体はコレだったのだ。あんなのに貫かれたらひとたまりもない、即死だ。本来なら爪で捕らえた相手へのダメ押しの一撃として使われるのだろう。殺意が高すぎる兵器だ。



「これはパイルバンカーと呼ばれる物。元は土木工作用ゴーレムに採用されていた装備だが、私が独自に改良し、殺人兵器へと転用したのだ。柔な人間共なら易々と粉砕できると考えたのだ。」


「こんな恐ろしい物、武器にしようだなんて、よく考えたな。オーバーキルも良いとこだぜ!」


「こちらからすれば、殺すも壊すも一緒ということだ。敵対対象に道徳心を求める方がおかしい。我々は人間とは違うのだ。」



 同情の余地が全くないから、相手を倒すことよりも破壊する事を重視しているのか。タルカスの信念、どんな手段を用いても人間を殲滅するという考えから、あの武器の発想を生んでいる。ヤツにはそれほどの覚悟を持って、今の戦いに挑んでいることが伝わってくる。



「その意志で挑んだのは良かったが奥の手が避けられてしまった。ならば、形振り構わずお前の体を粉砕することに専念するとしよう!」



 背中からもう一つのフェイタル・ギアを取り出し、斧を持っていた右腕にも装着した。それだけじゃない、後ろに背負っていた箱が下の方へとスライドした。しかも、折りたたまれていた物を後方に展開し、タルカスは今までとは異なる形態になった! これは人馬形態! 部下のゴーレムに騎兵型がいたが、それに似た形態だ。



「人馬形態だとぉ!?」


「私は部下を統べる帝王とも呼べる存在。部下と同じ、もしくはそれ以上の力を発揮できるのだ!」



 四本足になり、更に移動の勢いが増した。人馬といっても、大きさからすれば牛よりも大きい。南方の暑い国にいる象とか言う巨大な動物みたいな大きさかもしれない! そんなのがかぎ爪を持って振り回してくるのだ。危険極まりない!



「巨大な粉砕武器に、馬の機動力、人の何倍もある腕力! お前に勝てる要素はなくなった! 観念するが良い!」



 騎兵のような突進を行いながらかぎ爪の攻撃で引っかき回す。それに加えて杭打ちの攻撃も織り交ぜてくる。もう、何が何だか、何を相手にしているのかわからなくなってくる。人でも魔物でもない。人の破壊に特化した怪物を俺は相手にしている。



「ついに私の攻撃を受け止める余裕もなくなったようだな! 避けてばかりだ。攻撃せねば、私を止めることは出来ぬぞ!」


「下手に受け止められないから、そうしてるんでしょうが!」



 かぎ爪を受け止めたら、杭を打たれる。もしくは反対側のかぎ爪が来る。そこからも杭を打たれる。何重にも攻撃を重ねてくるのは予想できるので、斧の時と違って受けの防御が出来ない。攻撃の時も一緒。最初に受けた部分は破壊できても、それ以降の追撃をするのは難しい。少しずつの無力化が無理なら……あの技を試すしかない。



「アンタ自身、もう出せる物は出し切ったんだよな?」


「何を言っている? 今の形態がお前達人間を破壊するのに最適なのだ! 最高のものだ!」


「わかった。俺も最大級の技で対応させてもらう!」


「逃げ回るだけの状態で何が出来るというのだ!」



 実際、攻撃を差し込むだけの隙が無い。ちょっとした攻撃ぐらいなら出来るが、それ以上に相手の反撃が何倍も数回にわたって返してくるだろう。だから、一撃で仕留めるくらいの攻撃でなければ、俺は八つ裂きにされてしまう。



「……討ち取ったりぃ!! 敵は高速の攻撃には反応できぬ! 各々方も……、」



 侍は相手にしていた騎兵型を打ち倒したようだ。しかも、謎の防御法を掻い潜って倒したということになる。



「人間がアスヴァ・ドヴェーを打ち破っただと! 馬も用いずに、しかも素手で!!」



 驚くべき事に侍は素手で相手の胸を刺し貫いたようだ。しかも高速なら反応できない? ああ、それなら出来……るかぁ! そんなもん、お前しか出来ねえよ!



「高速で出来るだけ連続的に攻撃してみて下さい! 反応が遅れるようです!」



 エルも女性型ゴーレムのうちの一体を倒したようだ。高速で連続した攻撃……アクセレイションを活用すれば不可能じゃないだろう。侍とエル、どちらにしても人間離れした力があるからこそ、そんなことが出来るのだ。それは俺には無理だ。



「我らの軍団を上回る仲間を持っているとはな。お前もまだ本領を発揮していないのではないか? 猿芝居を私に対して行う事は許さんぞ?」


「いや、俺って実は力とか速さとかの身体的スペックは最弱クラスなんですけど?」


「口から出任せを言いおって!!」



 タルカスはこれまで以上の勢いで突進してきた。それこそ全力で俺を八つ裂きにして細切れにする勢いで。……あ、これは確実に死ぬな、俺は。そう思うと、全身の力が抜け

た。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ば、馬鹿な! 何が起きたというのだ!」



 軽く意識が飛んで、気付いたときにはタルカスの方が倒れていた。手足は全て切り落とされ、地に伏していた。死んではいないが戦闘不能になっている。



「ロア! タルカスに勝ったのね! 今のは凄かったよ! 横から見ていても何が起きたのかわからなかった!」



 エルが走り寄ってきて俺に抱きついてきた。俺は勝ったのか? 俺がタルカスをこんなにまでしたのか? 気が付いたときにはこうなっていた。俺は一体何をしたんだ?

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