第279話 広がる仮面の風評被害
「まかないシチュー、おいしいですよぉ~! すんごくおいしいですよぉ~!」
会合が終わり、一息つこうと思ったその時、変な物を目にすることになった。例の引き回しの刑が再び執行されたようだ。でも、タニシではない。タガメおじさんが刑を受けている。しかも、銀色仮面を被った状態で、だ。声はもちろん仮面のカッコイイ声だ。それでマヌケな行為を行っているのでメチャクチャ、シュールな光景を作り出しているのだ!
「うわぁ、更に銀色仮面の風評被害が拡大してるぞ。シチュー引き回してた、ってバカにされるな、リン先輩。」
あの仮面はミヤコに殴られた衝撃でタニシから外れ、コレを好機とみたおじさんが奪取したのである。もちろん、それをおじさんが被り、タニシを上回るクソムーブを繰り返した。酷かった。あれ以上に酷い物があるなら教えて欲しい。というくらいに酷かった。それがミヤコの逆鱗に触れ、刑が処されたのである。その代わりにタニシは会合に出ることになったので、なかったことにされてしまった……のか?
「まんまと教授殿の演技に乗せられてしまったでござるな。」
馬鹿馬鹿しい光景を見ていたら、侍が現実に引き戻してくれた。あんなのをずっと見ていたら、おかしな世界に連れて行かれてしまう。
「ん、ああ、そうだな。」
会合は完全に教授の策に嵌まってしまった。もちろん良い意味でだが。普通に行っても会合がまとまらない事を教授は予測していた。そこで敢えて自分が悪役になり、その他の人々を結託させるという手段を取ったのだという。共通の敵が出来ると普段敵対していても団結するという心理を利用したらしい。
「しかも、勇者の力を皆に知らしめるための行為でもあった。」
「わざわざそんなことしなくても良かったと思うんだけどなぁ。」
「そういうわけにはいかぬだろう。今の状況下で勇者の存在は必要不可欠。教授殿はお主の事を評価していたからこそ、引き立てる様な事をしたのでござろう。」
教授は俺の決闘の様子をしっかり見ていたのだという。セクシー先輩とかトニヤとの戦いを見るだけではなく、実習とかの様子も見ていたのだ。色々監視されていたらしい。ホント、いつどこで誰が見ているかわからんな、この学院は。
「というか、アンタも教授のサクラだったんだろ。なんで学院のお偉いさんと知り合いなんだ?」
「以前、英雄殿と共に防護魔法理論の手解きを受けるため、教授殿の元を訪れる機会があったのでござる。」
「ヴァルのヤツがねぇ……。」
アイツがわざわざ勉強しに来るなんてな。防護魔法の理論? 更に防御を固めるための方法でも編み出そうとしてるんだろうか? ただでさえ、ドラゴンスケイルとかで守られてるのにな。……もしかして、八刃を防御する方法を考えてる?
「会合の前、事前に挨拶に参ったところ、あの策のために手伝ってもらえぬか、と話があったのでござる。」
「見事な連携プレーだったな。でも、それに助けられたんだけどな。」
「何を申しておる。お主の働きに大いに助けられた。あの様な難題を乗り越える事が出来るのはお主しかおらぬよ。」
でも、あれは何も考えずに、策も何も浮かばなかったからヤケクソでやっただけなんだけどな。それがなぜか正解だっただけ。
「その邪念なき精神が人々を救うのだ。それがお主の力でござる。」
「そうかなあ……。」
なんか釈然としないが、明日はまた、タルカスと対峙することになる。うまくとめれりゃいいが、あいつは人間を深く憎んでいる。その憎しみを解消するのは難しいだろうな。
「ムッ!? なんだ、あの魔獣の群れは!?」
侍が目を鋭くして、突然の異変を観察している。広場に巨大な魔獣の群れが集結していた。お馴染みベヒーモスやキマイラ、グリフォン、ヒポグリフ等がいっぱいいる。
「タルカスの手勢か? それとも、学長の放った刺客か?」
「ちがう、ちがう。アレは味方だ。」
「なんと!? 魔獣を手懐けている者がいるのでござるか?」
「ああ、魔獣研究の専門家に頼んで、念のため援軍を呼びに行ってもらっていたんだよ。俺の手術前にこっそり実家に向かってもらってたんだ。」
セクシー先輩が新体制宣言後の騒ぎの中、姿を見せていなかったのはこのためだった。もちろんDIY寮が手薄になるのリスクはあったが、この後、タルカスや学長の切り札に備えるつもりで、先輩の実家の魔獣軍団の力を借りることになったのだ。
「相変わらず顔が広いのだな、勇者よ。」
「まあ、最初の決闘の相手があの人だったからな。決闘の後、なんやかんやで仲良くなったんだよ。コネを有効活用しただけだ。」
決闘の切っ掛けはとんでもないトラブルだったのだが、最終的には頼もしい援軍を呼ぶ切っ掛けに変化するとは。俺も想像できなかった。さすがに俺を嵌めようとした学長も悔しがっているだろうな。




