第277話 教授との賭け
「教授殿、拙者と賭けをしてみぬか? 勝てばお主は会合に従わなくとも良い事とし、負ければ無条件で従う。賭けの内容はお主に決定権がある物としよう。」
「フン、つまらん余興だな。」
「拙者の提案を飲むのか、飲まぬのか、それをお聞かせ願いたい。」
賭け? 一体何をするんだ? しかも、教授側が考えるんなら、教授が有利じゃん。絶対負けるよ? 何考えてんだ、侍!
「良かろう。君の提案に乗ろうじゃないか? しかし、私自身が賭けの内容を考えるのだ。勝てるなどとは思わぬ事だ。」
教授は席を立ち、わざわざ、円卓の真ん中に進み出た。その場所で何かの魔法の準備を始めた。自分の周りに宝石のような物を設置したりしている。その数は六個、六角形にしている。その上で魔術の集中を始めた。
「ペンタゴナ・フィールド!」
(パチン!)
小さな破裂音と共に教授の周りの石に沿って緑がかった透明の壁が出現した。これが教授お得意の結界魔法か? こんなことをして、どういう賭けをするのだろう?
「今から私の選ぶ三人にこの結界を破ってもらう。」
何ぃ! いきなり無理難題を吹っ掛けてきやがった! どうやって破れというのか?
「では、この問題に当たるメンバーを選定する。まずは君だ、コタロウ君。」
「拙者を加えてくれたか。その心意気に感謝する。」
大方、こういうのは提案者を除いたりするのが常だが、教授は敢えて侍を選んできた。もちろんそれは、自分の結界に自信があるから何だろうけど。
「次は君だ。勇者というのは君だったかね? 名前はロアと言ったか?」
「ああ、そうだよ。俺がロアだ。よろしく。」
俺も選ばれてしまった。この中では目立つ存在だから、当然かもしれない。それにこの手の人物によくありがちだが、俺を試すつもりも兼ねているんだろう。勇者の実力が知りたからだろうな。
「最後は……君、そこのコボルト君、こっちに来たまえ。」
「ワハッ!? あ、あ、あ、あっし? あっしは何も出来ないでヤンスよ!」
まさかのタニシが選出! タニシはDIY寮の代表として出てもらっていたのだ。トニヤもいないし、ジムも治療中、ゲイリーも囚われの身、俺は勇者という枠で出ているからだ。まあ、粗方の事情は知ってるので、適任だったというわけだ。
「この三人で結界破りに挑んでもらう。手段は問わぬが、下手に攻撃を加えれば、この結界は手痛い反撃を行うよう設定してある。」
「じゃあ、早速……、」
「おお、忘れておった。勇者よ、君の剣技は使用禁止だ。あの魔術解除の技も含めてな。色々、偽装しておるようだが、あれは魔術だ。私の目は誤魔化せんよ。この結界はそれにも対応出来るようにしてある。解除と同時に反撃が来ると思っておきたまえ。」
「うっ!?」
あっちゃあ! 早速、釘を刺されてしまったぞ! アレで速攻勝てると思ったのに! やられた! 知ってるって事は俺の決闘をどこかで見ていたんだろうな。分析もされてしまっているようだ。
「と、とりあえず、あっしが一番手で行くでヤンス! タニシ、行きヤーンス!!」
タニシが相談もせずにしゃしゃり出てきた。どういう策で結界を破るつもりなのだろう? まさか、学院での勉強で習得した、アレを使うつもりなのか? タニシが初心者用の小型の杖を出して集中し始めた。
「ウォーター・ガン!!」
(ピュッ……チョロチョロ……。)
ああ、やっちまった! しかも、普通の時より調子悪い。人の前で緊張してたからこんなんになっちまったのか? エルを助けた時は凄かったらしいのに……。なんか周りからクスクスと笑い声が起きている。
(ピキン!)
とはいえ、近いところから撃ったので、教授の結界には辛うじて届いている。それに反応して結界がガラスを軽く叩いた様な音が響いた。
(……ベチン!!)
「ワギャーーーッッス!!!」
何と、攻撃した扱いになったのか、強烈な反射が返ってきた! 水の飛礫がタニシに弾き飛ばされ顔面に命中! 凄い威力だ!
「た、タニシーっ!?」
倒れそうになったタニシを抱き止めた。タニシの顔を見ると、目をグルグルと回して、気絶寸前だった。
「あ、アニキ、あっしはもうダメでヤンス! 後はおねが……キュウ!」
「タニシーっ!?」
なんかお約束の展開になってしまったが、タニシの犠牲で結界の恐ろしさが十分わかった。あんな、虫すらも殺せなさそうな水を、何倍にも威力を増幅して反射するのだ。教授が最初に言っていた事がハッタリでないことを証明したのだ。
「次は拙者の出番でござる。」
タニシに気を取られていると、今度は侍が出てきた。お前ら、相談しようって発想はないんかい! しかも、侍よ、三人よれば何とかって言ってなかったっけ?




