第273話 謎のルポ・ライター
タニシとタガメおじさんはミヤコに連行されていった。店の手伝いでもさせるつもりなのだろう。今度は入れ替わりでロッヒェンと力士がやってきた。この前の戦いに責任を感じて、捜索を続けていたのだ。アイツがタルカスに攫われたらしいので、躍起になって探しているの。
「申し訳ありません。彼らの拠点を発見できませんでした。」
「彼らの掌握した施設も探したでゴワスが、新型ゴーレムの姿すらなかったバイ。」
ヤツらの拠点はトープス先生が知っている場所を捜索してももぬけの殻だったようだ。それ以前に新型ゴーレムの情報どころか噂すら完全に隠されていたので、別の場所に侵略拠点を用意していた可能性が高そうだ。
「あんまり落ち込むなよ、二人とも。発見不可能だから、敢えて撤退したんだろうからな。」
「でも、お弟子さんが……、」
「大丈夫だ。アイツはそう簡単に死にはしない。デーモンと戦った時も、いつの間にか復活していたぐらいだ。気にしなくていい。」
戦いが一旦終結し、集合したときから二人はゲイリーのことを気にしていた。共闘していた仲間が死に、その遺体も持ち去れたらしい。
「ヤツを気にするのは師匠の俺だけでいいさ。俺の弟子なんだから、面倒見るのは俺の役目だ。」
「こうしている間にも、彼は解剖などの人体実験をされているかもしれないんですよ!」
「ヤツの何を調べるのかは知らないが、タルカス達も死なせたままにするとは思えない。そう考えるしかない。それよりもお前ら二人も休息を取る必要がある。次の戦いに備えるんだ。」
「わかりました……。」
納得しきれていないようだが、今はとにかく休んでもらうのが一番だ。闇雲に捜索して消耗するくらいなら、向こうから出てくるのを待った方がいい。
「ジュニアどんも腹ごしらえしにいくでごわすよ。その後に考えた方がよかバイ。」
力士は気分を切り替えロッヒェンを炊き出しエリアに連れて行く。ミヤコの店のところだ。ミヤコにイジられた方が余計なことを考えなくて済みそうだしな。
「じゃあよ、俺らも休ましてもらうぜ。また後で会合には参加させてもらうがな。」
ファルも休息のため、俺の元を離れていった。いつの間にやら、侍も姿を消している。それにしても、あのゴリラのどこに気を引かれたのだろうか? 不可解だ。敵だけじゃない、クエレさんも気になることを言ってたし。昔、「似たような人を見た」と言っていたのが気になる。滅んだ民族の末裔だったりとか……。うーん、気になる。
「気になりますか? 勇者ロア殿。」
「……!? 誰?」
後ろから声をかけてきた男。振り向いて見ても誰かわからない。長い金髪で、前髪をオールバックにして、服装も動きやすそうな物を着ている。ローブに似ているが、動きやすい作業用にアレンジしたようなセンスのいい服、しかもハンサム……というより、少しシブさを感じさせる容姿。只者ではないオーラが全身からにじみ出ていた。
「失礼致しました。私の名はサ……いえ、アラム・スミスと申す者です。」
謎の男は恭しく紳士的な態度で、俺に挨拶をしてきた。ついでに小さな紙切れを手渡してきた。名前などが書いてある。ゲンコツのおっちゃんやタニシが持ってたヤツと同じだ。もしかして、この人、商売人?
「ルポ・ライター? 何してる人?」
紙というか札には肩書きが書かれている。おっちゃん達ならダンジョン・コーディネーターと書かれていた。やっぱ、こういう札を用意するのは最近の流行りなんだろうか?
「恥ずかしながら、実話を元にしたドキュメント、実録的な書籍を作っています。あなたのお知り合いのゲンコツさんの本を書かせて頂いた事もあります。」
「え!? あの本!? あの本を書いてたんすか?」
「そうです。様々な業種・業界に突撃・同行取材をして、それを世間に紹介する仕事をしております。時には都市伝説、噂話などをテーマに取り扱う事もあります。こちらはほぼ趣味で行っている様な物ですが。」
「色々、やってるんすね!」
一見大変そうではあるが、楽しそうだな。世界中色んなところを見て回れるだろうし。本が売れれば儲かるだろうし。しかし、俺の元へやってきたのはどういう意図があるんだろう?
「それ故、眉唾物のシークレット情報も知っているのです。例えば、世界の運営を担う組織の事、各種陰謀にまつわる話まで、お話しできますよ。」
「ヤバい噂全部知ってるんすか?」
「はい。例えば、“ホムンクルス”と呼ばれる物をご存じですか?」
「ほむんくるす?」
「現代には伝わっていない、ロストテクノロジーの一種です。違う言葉に置き換えれば、人造生物、生体ゴーレムとも呼ばれる存在です。」
人造生物? 生体ゴーレム? 意味がわからない単語が出てきた。変な呼び方だしロスト・テクノロジーというくらいなのだから、ただのゴーレムではないのだろう。
「それとウチのゴリラにどういう関係が……?」
「あなたのお弟子さんはホムンクルス……の疑いがあります。あくまで仮説なのですが、特徴がある程度合致しているのです。タルカス殿はそこに気が付いてしまったのかもしれませんよ?」
「なんで、そんな事知ってんの?」
「情報を世界各地から集めていると自ずと耳に入ってくるものなのです。」
不思議な男だった。纏っている雰囲気も同じ国、同じ世界の物とはかけ離れているような……? 異質な世界の住人の様でもある。それにこの男……俺の知る誰かに似ているような気がする。見た雰囲気はまるで違うが、奥底に隠している魂がアイツに似ている……。




