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第260話 今度は私が人を救う番。


 ヘイゼルの体を乗っ取ったのは、インスティチュート・ソサエティ強行派、タルカスだった。タルカスは同組織のジム君に対して、人間を抹殺する様、指示を出した。



「貴様が説得したところで無駄だ。此奴自身が反発したとしてもだ。ゴーレムおよび義肢の使用者であれば、私には逆らえぬよ。私がこの娘を制御下に置いているのと同じようにな!」



 私がジム君に対して思いとどまるよう説得したけれど、その行為をタルカスは無駄だと言う。ヘイゼルに付けた義手……ただそれだけでも人を操れる。そうなると、体全てがゴーレムに置き換えられているジム君は……。



「それに目の前にいる此奴だけではないぞ? 貴様の守ろうとしている対象、襲撃してきた集団の中に私の同胞が紛れ込んでいるとしたら、どうだ?」



 DIY寮のみんなや上級クラスの人達の中にもゴーレムが? そうだった。そもそもはトレ坊先生がロアに依頼したのはその疑いがあったから。その後、トープス先生やローラからも情報はもたらされたけれど、内部の人間でさえ、正確な数は把握出来ていないとも言っていた。



「目覚めよ、我が同胞達よ! 人間共に反旗を翻すときが来た! 人間達を一人残らず抹殺するのだ!」


「……ウアッ!?」



 タルカスが口上を述べた途端、ジム君はうめき声を上げて、苦しみ始めた。しかも、彼だけじゃない。上級クラスの人々にも同じ様な症状が現れ始めていた! DIY寮の方からも悲鳴等のざわめきが起きている! もしかしたら、強制的に制御を行う仕掛けが為されていたのかもしれない。



「う…うう……タ、タルカス様……。」


「どうだ、ジム・ワーロック? これで心置きなく人間共を屠れるだろう? 戦って我らの理想を勝ち取るのだ!」


「に……人間……を……。」


「ジム君、しっかりして! あなたは弱い人ではないはずよ! タルカスの悪意に飲まれちゃ、ダメよ!」



 ジム君は体を細かく震わせていた。自意識がタルカスの仕込んだ悪意と戦っているのかもしれない。そんな彼を見ていると、私はこの光景に既視感を感じ始めていた。



「……うう……、」


「ジム君!」


「……殺す!!」



 ジム君は私に対して、鋼線を巻き付けようとしてきた! 私は咄嗟に大鎌の柄で防いで難を逃れた。ジム君の方に視線を移すとこちらを殺意の籠もった目で睨んでいた。完全に人が変わってしまっている!


「ウググ!?」


「ジム君ではなくなっている!?」


「フハハ、我らゴーレムの力に対抗できるとはな! しかも今は此奴のリミッターを外している。それにもかかわらずだ。やはり、魔族も侮れん力を有しているな!」



 ジム君は凄まじい力で私を引き倒そうとしている。私はアクセレイションを使って対抗していなかったら、一瞬で殺されていたかもしれない。武器もリュクルゴスではなくて、普通の武器なら容易に鋼線で切断されていたと思う。今まで自分の能力を忌々しいとしか思ったことがなかったけれど、今はそれに生かされている事を感謝した。



「グウッ!!」



 ジム君が鋼線を一気に引っ張ったかと思うと、その衝撃で鋼線がプツリと切れた。武器はなくなってもお構いなしに、今度は素手で私に殴りかかってきた!



「もう、止められないのね? でも、君が諦めても、私は諦めないよ!」


「無駄な事を! 貴様が何をしようと私の束縛から此奴は抜け出せぬよ!」



 普通なら無理でしょうね。でも、それを可能にした人を私は知っている。今の光景の既視感……それはかつて私が置かれていた状況と酷似している。あの日、私が魔王になりかけた時と。



「きっと私なら出来る! 彼に…勇者に救って貰ったから、今度は私が人を救う番になった!」


「そのような、絵空事が出来るものか! 私の組み込んだ制御装置は完璧なのだ!」



 ゴーレムの体を制御している根幹の部分は魔力による物だと思う。その出所を見定めて分断すれば元の状態に戻るはず! 魔力の気配を探って、ジム君とは違う部分を霽月八閃で斬ればいい!



「ウアァァッ!!」



 ジム君の攻撃は凄まじかった。力も速さも人間を遙かに超えている。私のアクセレイションでさえ、ギリギリ凌げる程度だった。戦闘用のゴーレムの技術は人間を凌駕する領域に来ているのは間違いなさそう。



「せめて、八閃を決める瞬間だけでも、アクセレイションを全開にしないといけない!」


「まだ、何か切り札があるというのか? 防戦一方で何が出来るというのだ!」

 制御の源は特定出来た! 後は八閃を決めるだけ。その隙を見定めないといけない。何か切っ掛けを作らないと……。


「グアァッ!!」


(ドカッ!!)


「……うっ!?」



 ジム君は私の意表を突いて体当たりを仕掛けてきた! 私は避け損ねて、まともに食らって転倒、そのまま馬乗りされる形になった!



「よくやった! さあ、早くその女の止めを刺してやれ!」


「くっ!?」



 ジム君は両手を組んだ状態で大きく振りかぶり、それを叩きつけようとしていた。このままではどうすることも出来なかった。大鎌も足で押さえられ、どうすることも出来ない!



「エルしゃん、今助けるでヤンしゅ! ウォーター・ガン!!」


(パシャッ!!)



 ジム君の顔に水が浴びせられた。それは攻撃と言うにはあまりにも弱く、稚拙な物だった。文字通り、子供の水遊びのような……。でも、タニシさんの魔術は牽

制としては十分な効果を出した。



「グオアッ!?」



 そんなわずかな事に気を取られ、ジム君は立ち上がり、タニシさんへと標的を変更しようとしていた。



「何をしている! そんな雑魚は放っておけ! 今はその女を倒すのだ!」


「ガアァァッ!!」


「わひーっ!?」



 タルカスの指示に従わず、ジム君は怒りの矛先をタニシさんへと向け、突進して行く! 私はその隙を見逃さなかった。タニシさんが作ってくれたチャンスを無駄にするわけにはいかない!



「奥義、霽月八閃!!」



 ジム君の背後から大鎌を一閃させた。それと同時に彼は動きを止め、動かなくなった。



「う……うあぁ?」


「馬鹿な! 斬られたのに傷一つ付いていないだと? 何をしたのだ?」


「あなたの制御からジム君を解放しました。これであなたの思い通りにはなりません!」


「……ぼ、僕は!?」



 ジム君は正気を取り戻していた。恐ろしい顔つきから、元の優しい顔立ちに戻っている。



「おのれ! 許さんぞ! 貴様ら諸とも排除してくれるわ! プロミネンス・バースト!!」



 タルカスは無防備な私達に向かって炎熱魔術を放った。しかも、明らかにヘイゼルの物よりも大きく強力な物に見えた。絶体絶命の瞬間、私達の前に良く見慣れた人影が現れた。



「絶空八刃!!!」



 彼が帰ってきた! これは彼にしか出来ない技! 正真正銘の私達のロアだっ

た!



「間に合って良かった。ただ今、勇者参上!!」


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