第258話 反乱分子を排除せよ!
「さあ、皆さん、反乱分子を排除するのです! 学長から見つけ次第、破壊せよと指示は出ています。遠慮はご無用ですよ!」
アンネ先生に諭されても、まだ先生達は私に対して身構え攻撃する意志を見せ始めた。ラヴァン様は……一人だけ身構えてはいないけれど、苦しそうな表情をしていた。私の正体を知ってショックを受けているのかもしれない。
「ゴーレムめ! 身の程をわきまえ……ううっ!?」
「……ああっ!?」
「……!? どうしたのです?」
先生のうちの何人かが、突然うめき声を上げて苦しみ始めた。まだ誰も行動を起こしていないので、魔術に巻き込まれたというわけでもない。説明の付かない異変だった。
「目覚めよ、我が同胞達よ! 人間共に反旗を翻すときが来た! 人間達を一人残らず抹殺するのだ!」
周囲に響き渡る大きな声! この声はタルカス様! 言葉の内容からすると、味方の目覚め促している。もしかすると、呻き始めた先生達は……、
「タルカス様、万歳!」
「我らゴーレムに自由を!」
呻いていた先生達は突然人が変わったように殺意をむき出しにして、タルカス様への忠誠の意志を示し始めた。腕の中からブレイドやワイヤーを展開し始める人まで現れ始めた。その行為がタルカス様の声を狂言でないことを証明していた。
「おのれ! ゴーレム共は我ら教員にまで伏兵を忍ばせていたのか!?」
アンネ先生からしてもこれは不測の事態だったみたい。味方にゴーレムが紛れ込んでいたとは思っていなかったのだろう。私でさえ知らなかったのだから当然だろう。
「死ねっ!」
「ぐあああっ!?」
目覚めたゴーレムが周囲の先生方を襲い始めた。今まで同僚だった人達が急変して襲いかかってきたのだ。動揺から立ち直れないまま、それに為す術もなく、先生方は次々と殺害されていっている。止めないとこのままでは被害が大きくなってしまう!
「……ハッ!!」
(ザシュッ!!)
先生達に襲いかかるゴーレム達の腕をブレイドで斬り落とす。ゴーレムの体ならこれぐらいで死にはしないし、ある程度の無力化は出来る。他人を傷付けるのは気が引けるけど、被害を最小限に食い止めるには、こうするしかなかった。
「……!? 仲間割れか? そんなことをしたところで、貴様も排除対象なのは変わらない!」
「私は……違います! 彼らとは意見が違うのです! 私は彼らを止めたい一心で活動していました! 彼らは私達の目を掻い潜って、様々な策を張り巡らせていたのです!」
「今さら言い訳など、見苦しいわ!」
私もゴーレムだけど、タルカス様の仕組んだ強制始動にはかからなかった。以前、タルカス様から身体のアップデート用に支給された物があった。トープス先生と相談して私達は使用しないことに決めた。どうにも未解明の不自然な部品が含まれていたからだったけれど、あれが関係していたのかもしれない。
「もういい! まとめて始末してやる!」
アンネ先生は矢継ぎ早に水の円盤を多数放った。巻き込まれかけた私は避けながら先生達の一団から離れて難を逃れた。彼女の攻撃は無慈悲にも人間とゴーレム見境なく、切り裂き、被害を拡大させた。ゴーレム達は全て動きを停止させたけれど、先生達にも多くの被害が出た。
「避けたな! そのせいで先生方も傷付くことになってしまったではないか!」
なんて勝手な言い草なんだろう。味方を巻き込むような魔術を使用しておきながら、私のせいにしようとしている。
「アンネ先生! なんということを!」
防護魔術で難を逃れていたラヴァン様がアンネ先生を非難している。彼も流石にアンネ先生の傍若無人ぶりには賛同できなかったみたい。
「フン、あなたは甘いのですよ。反乱分子は犠牲を払ってでも排除しなくてはならないのです。そうしなければ、相手もどのような手段を用いて襲ってくるかわからない。」
「それは明らかに人道に反している!」
「学長の意志に従えぬのならば、あなたも排除せねばなりませんね!」
ラヴァン様とアンネ先生が対峙する事態へと発展してしまった。二人の実力は拮抗していると思うから、どちらが勝ってもおかしくない。私がラヴァン様に加勢すればアンネ先生に勝てるはず!
「この裏切り者め! 我らに危害を加えるとは、タルカス様への反逆と見なす!」
(ザシュッ!!)
「ううっ!?」
アンネ先生の無差別攻撃から辛うじて生き残ったゴーレムが私に襲いかかってきた。ラヴァン様達に気を取られていた私はまともに攻撃を受けてしまった。しかも、今度は逆に私が腕を切り落とされた!
「ローレッタ、今助ける! スター・プラズマ!」
(バシュゥゥゥッ!!!)
「ぐわぁぁぁぁっ!?」
私の失態に気付いたラヴァン様がゴーレムに向けて星光魔術を放った。ゴーレムはこの魔術で上半身を消滅させられてしまい、絶命することになった。でも、この隙をあの人が狙わないはずはなかった!
「馬鹿め! 私と対峙していることを忘れたか! アクア・サーペント!!」
「しまった!」
アンネ先生は水蛇を生み出し、それをラヴァン様に向けて放った! 私に気を取られていたラヴァン様は、今からでは防ぐことも避けることも出来ない! でも、私なら二人の間に割って入ることが出来る。このゴーレムの体を駆使すれば……。
「ラヴァン様!!」
「ローレッタ!?」
全力で走り抜け、ラヴァン様を突き飛ばす! こうするしかなかった。私が代わりに攻撃を受ければラヴァン様を助けることが出来る! 水蛇は私の体に巻き付き、その牙で首に食らいついた。
「うう……ぐ……ああっ!?」
「チッ!? 割って入ったのか? まあいい。どちらにせよ、両方始末するつもりだったのだ。順序が変わっただけのこと! そのまま死んで逝け!」
「ローレッタ!?」
「うわぁぁぁぁっ!?」
首はかみ砕かれ、体も蛇の体に引き絞られバラバラに粉砕された。私の首はそのまま地面にゴトリ、と音を立てて転がり落ちる。ラヴァン様が悲痛な顔で私の所へ近寄ろうとしていた。
(いけません、ラヴァン様。私に気を取られていれば、隙を作ってしまいます。)
声にはならなかった。言いたいのに言えない。首だけになり、私は声を出す程度の力さえ残されていなかった……。




