第247話 迫る魔の手
「俺たち、どうなっちゃうんですかね?」
「よりにもよって、なんでこんな時に危険な体制になっちゃうんだぁ!」
突然の告知は衝撃的な内容だった。学生や職員に対して、競い合わせ、争わせるという危険な新体制の宣言だった。そんな体制だと、どうしても力の強い人の方が有利になってしまう。そういう意味ではこのDIY寮の人達は不利な立場に晒されていると解釈できる。みんなそのことは理解しているから、不安になって、怯え震え上がっている。
「大丈夫よ。みんなで力を合わせればどんな困難でも乗り越えられるわ。彼がいつも言っていたでしょう?」
「でも、自分たちだけじゃ無理だ……。ただでさえ成績とかで落ちこぼれていたのに……。」
「もうだめだぁ。こんなところで死にたくないよ!」
みんなの不安と恐怖が限界を超えて、冷静じゃなくなってきている。タダでさえ彼がいなくてみんな不安定になっているのに、このままでは……。彼ならこういう時はどういう事をするだろう?
「劣等生達が集っている集落というのはここのことか?」
DIY寮の外側から声をかける人が現れた。声をかけてきたのは代表格の一人だけだけど、他にも多数、何十人も集合してこの場に現れた。しかも、ほとんどは見たことのある人達だ。この人達は私のクラスメイト達、上級クラスの人達だった!
「ごきげんよう。こんなところに何の用かしら、皆さん?」
「……エレオノーラさん? 何故、貴女のようなお方がこのような場所に?」
「いてはいけないかしら? 友達がいるところにやってくるのは何もおかしくないはずよ。」
「そ、それは……。」
私がここにいることを疑問に思っている……? まるでこの場所を良くない場所であるかのように考えているのかもしれない。そんな人達がここに何の用があって来たんだろう?
「フン! 何を怖じ気づいているの、みんな?この女がここにいるのは、私にとって好都合だわ!」
「ヘイゼル……!?」
上級クラスの人々に混じってヘイゼルがいた。よく見たら取り巻きの女の子達も一緒にいる。あの日、ダンジョンで会って以来、姿を見せていなかった彼女がこのタイミングで現れた。ローラに腕を切断されて大怪我を負った彼女が以前と変わりない姿でそこにいた。代わりに煌びやかな装飾の手袋を切り落とされたはずの腕に付けていた。
「しかし、ヘイゼルさん、エレオノーラさんは貴女の従姉であり、同じグランデ家の方なのでは……?」
「同じじゃない! あの女はグランデ家を貶めた忌み子! いずれ、私によって抹殺されるべき存在よ! ここの連中とまとめて始末してしまえばいいのよ!」
「始末ですって……!?」
その言葉を聞いて、その場にいた人達全員に緊張が走った。DIY寮の中からは悲鳴を上げる人達もいた。もしかして、彼らは新体制の最初の標的をここにしようとしてるの?
「もういいや。ヘイゼルさんが言ってしまったのなら、全て話そう! 我々、上級クラスは君たち下級クラスの人間を排除しにきた!」
「……排除!?」
「なんで!?」
「別に悪いことしてないのに……。」
あまりに突然の排除宣言に更にDIY寮の人達が更に動揺を強めてしまっている。慌てて奥の方に引っ込んでしまう人まで現れ始めた。このままでは阿鼻叫喚の地獄絵図になってしまう。
「君たちは学院にとって害悪でしかない! 学院が幅広い人材を入学させた結果、学院全体のレベルが低下してしまったんだ!」
かつての魔術学院は現在のように、魔術の才能があれば誰でも入れたというわけではなかったと聞いたことがある。伝統ある魔術師の血統の人間しか入れなかったとか。昔は本当に狭き門でごくごく少数の一握りの人種しかいなかったらしい。
「魔術をロクに扱えないというのにいつまでも在籍している! あまつさえ、こんなみすぼらしい集落まで作って徒党を組み、醜態を晒している! 君たちは生きていて恥ずかしいと思わないのか!」
酷い。あまりにも酷い言い方だ。この言葉でどれだけの人の心が傷付くかわかってない。そんなことを平気で言える人の方が恥ずかしいとさえ思う。
「君たちがいなくなれば、学院は再び黄金期を迎えるものと確信している! 学長が新体制を打ち立てたのは、こうなることを推奨しているからなんだ! 学生の力で革命を起こすんだ!」
「そんな考え、間違ってる! 学長が推奨しているからってそんな横暴が許されるなんて思いたくない!」
私は率先して彼らの前に立ちはだかった。今はみんな、事情があってここには来れないけど、私が守り抜いてみせる!
「タニシさん、DIY寮の皆さんをなるべく安全な所へ避難させてくれませんか? そして、防護魔術の得意な人を集めて、護れる態勢を作って下さい!」
「エルしゃんやみんなのためなら、必死でガンバルでヤンスよ! さあさあ、みんな、素早く行動に移すでヤンス!」
例え彼が不在でも、彼が護ろうとした人達を守り抜かなくちゃいけない。彼が戻ってくる、その時まで何があっても。それが勇者のパートナーである私の役目だから!




