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第245話 また会いましょう!(いなくなるとは言ってない。)


「……ん? 何? 辞表かね?」



 私の前に辞表を持ってきた者がいる。以外に思う。彼の働きぶりは評価していたし、周りの評判も悪くはなかった。しいて悪い点を挙げるならば、あまりにも優秀であることぐらいか?



「これはいわゆる、一身上の都合というものですよ。私には歴とした人生設計という物がありましてね。」


「ほう、それは初耳だな? もしよければ聞かせて貰えんか?」


「ふふ、話したいのは山々ですが、トップシークレットとさせて頂いていますので……。」


「フン、謎めいた男よ。」



 この男の素性はハッキリとはしていない。私の情報網でさえ、大した情報をつかめてはいない。私の秘書になる前はルポ・ライターなる仕事をしていたようだ。各種専門職の人間を取材し、実録として書物にまとめている。史上希に見る試みであり、近年のベストセラーともなっているようだ。



「また取材の生活に戻るのかね? 君が多数の書籍を出版してるのは知っている。新書が読める可能性が出来れば私は嬉しいのだが?」


「フフ、流石ですな。名義を変えておりましたのに。もちろん次作の可能性にご期待願いたいものです。」



 この男、サム・ジェイルマンは出版上の名義ではアラム・スミスとなっている。出版物の著者名はペンネームとなっていることも珍しくない。サムという名前さえ偽名なのでは、と私は踏んでいる。



「学長、あの計画を近日実行に移されるのですね? 例の実証試験も完了したということで。」


「フム、額冠の事か? あれからは色々貴重なデータが得られた。古代から近代に至るまで、歴代の勇者を通して、あらゆる記憶が蓄積されていた。何カ所か、実存の歴史書とは異なる部分も見受けられた。これが世間に公表されれば、天地がひっくり返るほどの起きるであろうな。」


「興味深いですな? 私もその内容を知りたい物です。」


「フフ、知ればきっと後悔するぞ? 私は長い時を生きている故、実際に見てきた事もあるし、自ら調査したりもした。そういう意味で他者の視点での実証が出来たのだよ。その前提がなければ、必ず歴史観、世界観が崩壊する恐れがある。だからお勧めはしない。」



 特に敬虔な神教徒(マーティアル)であればあるほど衝撃は大きかろう。法王を含めた教団上層部の一部の人間は“事実”を知っているであろう事は容易に想像が付く。教団と勇者はその事実を抱え込んでいる。七賢人メンバーの一部もこの事実を知らない。もちろん私のように勘付いている者はいるだろうがな?



「フフ、いまは知らないでおくとしましょう。後年、公開されることを期待しておきます。」


「それで良い。物事は深く知りすぎると、絶望してしまうからな。ただし、公開するかはどうかはわからないがな?」


「ハハ、あなたらしくもない。“変革”が成功すれば、全てが公になると言っても過言ではないのではありませんか?」



 “あの”計画はトップシークレットのはず。これを知るのは法王庁メンバーを除く七賢人と掃除屋だけなのだが? この男……侮れん。前々から思っていたが、あまりに優秀すぎるのも考え物だな。



「君が何故、それを知っている?」


「ある意味、一種の職業病とも言えますな? 私はあらゆる物事に首を突っ込みたくなる性分なのです。生来の悪い癖なのですよ。」


「あまり知りすぎると、寿命を縮めるぞ?」


「ええ、承知しております。ですから、職を辞すると申しておるのです。」



 まるで引き際を見極めている、とも言いたげだな? それとも必要なことは全て済ませた、と言い換えた方が良いか? どちらにしても、想像以上に危険な男のようだ。



「世間話はここまでとさせて頂きましょう。学長もお忙しいでしょうし。それでは、今後のが活躍をお祈り致します。」



 その言葉を最後にサムは踵を返し、執務室から去って行こうとしている。最後に……念のため聞いておこう。うまく煙に巻かれてしまうかもしれんが。



「最後に一ついいか? 君はどこからやってきたのだね?」


「フフ、実に面白い質問をされますな? いいでしょう。お答えしましましょうか。私は“神の国”からやってきたのです。」


「……? 君は私をからかっているのかね? それとも、これは謎かけか?」


「いえいえ、からかってはおりませんよ。かといって、真実は話せません。ご想像にお任せします。この世には如何なる賢者、いや神でさえも知り得ない事実があるとだけ言っておきましょうか。生きていれば、また会うこともありましょう。それでは失礼。」



 フン、口が達者なものだな。想像通り、うまく煙に巻かれてしまった。まあよい。勇者を仕留めた後は、この男の素性を探るとしよう。そしていつかは化けの皮を剥がしてみせよう。私が知り得ぬ事がこの世にあってはならぬのだ。

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