第240話 俺たちの明日は……?
「とりあえず入ったか、全員?」
「入ったでヤンス。でも……、」
アンネ先生から告げられた、この島に迫り来る脅威。それを回避するための手段を考えた。転移魔法を使えるのは味方にはおらず、使える連中はアンネ先生以外、気を失っている。かといって逃げる所もない。この島には山もあるが、そこまで全員を連れては行けない。動ける人間だけで行ったとしても、森の中をすんなり進めるとは限らないからだ。
「あと二、三人しか入れないでヤンスよ。全員は無理でヤンス。誰かがここに入れなくなって犠牲になるでヤンス!」
「グムーッ!?」
退避場所として白羽の矢が当たったのはジムが作った氷の砦だ。入り口も氷で塞いでしまえば、津波から身を守れるからだ。とはいえ、元々、俺らだけで立てこもる予定だったのだ。大人数には対応していない。これから大きくしようにも時間がないから間に合わない。
「……俺は外に残る。」
「へあっ!? 何を言ってるでヤンスか!」
「本気だ。全員入れないなら、俺は残ってなんとか津波をやり過ごす。」
「無茶でヤンス!」
無茶かもしれない。鯉昇龍門でやり過ごすとしても対象がデカすぎてどこまで持つかわからない。峨嶺辿征も無理だ。自然現象を消滅させることには使えない。せめて……剣、剣さえあれば何とかなるかもしれない。でも残念ながら、今は手元に剣がない。
「ハ、ハハハ! 流石の勇者もお手上げと見える! 勇者といえどただの一人の人間と変わらない。魔術には勝てぬし、奇跡を起こすといえど自然現象を止めることは出来んのだ!」
「うるさいよ、アンネ先生。そんなこと言われなくてもわかってる。アンタにしたって、俺には勝てても、五体不満足で動けない状態で言われてもな。アンタが凄いんじゃなくて魔法が凄いだけだろ。エラそうに言うことじゃないぜ。」
「勇者の奇跡とかいうふざけた事象に魔術が勝ったのだ。それを目の当たりに出来ただけでも、犠牲になる価値はある!」
「バカじゃないの?」
「ハハハハハ! このまま私も外に残って貴様の無様な最後を見届けてやろう!」
五体不満足で全身に痛みが走っているというのにコレだ。正直、この人は狂っているとしか思えない。勇者を貶めるために自分を犠牲にするとは。よっぽど、学長に心酔しているか、魔法に狂った感情を抱いているかのどっちかだろう。
「俺も同感だね。みんなを助ける、とか言っといて結局、助けられない。自分も含めて犠牲者が出る。言ったことの責任を取ってみろ! きれい事のツケってのを払ってみせろや!」
トニヤまで便乗してきた。さっきまで気を失っていたから砦に放りこんでいたのだが、意識が戻って出てきたのだろう。素直に入ってりゃいいものを。俺が苦しむ様を見るのが楽しみらしい。全くどいつもこいつも趣味が悪いぜ。
「いいぜ。死ぬのと引き換えになってでも、俺の醜態が見たいなら、勝手にしろ。でも、お前、意地でも生き残ってリン先輩と添い遂げるんじゃないのかよ?」
「うるせえ、俺の勝手だ! 他人が口を挟むんじゃねえ! 俺は俺で脱出手段を持ってんだよ。ギリギリまで残って、結末を見てやるのさ!」
「はいはい、そうですか。」
なるほど。コイツは脱出手段を持っているのか。その方法はわからないが、リン先輩に何か渡されているのかもしれない。もしくは自力、転移魔法が使えるとか、そういう事だろう。いいさ。好きにすればいいよ。
「僕も気になります。結末が。」
今度はジムもやってきた。ジムの場合は砦に立てこもる策に必要不可欠だったので、協力してもらった。外した肩も元に戻してやったし、ジムも負けを認めた上で従ってくれた。とはいえ、何か思うところはあるらしい。
「だから、僕も付き合います。あなたの信念がどれ程の物かを見たいんです。」
ジムは話しつつ、砦の入り口を完全に閉じようとした。下からせり上がってくる氷の壁を見て、タニシが慌てふためき騒いでいたが、次第に声も聞こえなくなった。これで中には入ることも出ることも出来くなった。
「ハッ! ヘタレ風情がイキがってんじゃねえよ! 付き合うとか、見定めるとか生意気なんだよ! テメエには十年も二十年も早え! ションベン漏らしながら泣きわめく様をじっくり観察してやんよ!」
「トニヤ君、あなたは逃げると言いましたね? 僕は逃がすつもりはないですよ。その素振りを見せたら殺しますから、そのつもりでいて下さい!」
「あぁ!? やんのか、コラァ!!」
「やめろ、やめろ! お前らこんな時まで喧嘩すんな! それにお前らどっちも死なせるつもりはないから!」
これから死ぬかもしれないって時に、元気なヤツらだ。海の方を見ると、津波が迫ってきているのが見える。そして、夜まで開けようとしている。明るくなって夜が明けるか、津波が到達するのが先か? どちらにせよ、津波を凌がないことには俺たちに明日はない……。




