第237話 取り上げられた物を盗んできました!
「これはお前に渡しておく。理由は聞くな。」
ゆーしゃ達が追加実習に行く日の朝、エピオンが二つの物を持ってきた。教室に持って来やがった! 目立つだろ! 空気読め!
「渡す相手間違えてない? これ、ウチのじゃないから!」
前まではしょっちゅう見ていた物なのに、最近は見ていなかった物だ。これ、取り上げられてたんじゃなかったっけ?
「知るかよ。ヤツらは追加実習とやらに行ったんだろう? 早朝から。いちいち早起きしてまで渡すのはダルかったんだよ。」
額冠とゆーしゃの剣。これ、学長に取り上げられたって聞いたけど、なんでコイツが持ってんの? 素行不良がバレて、学長のパシリにでもなったのかな?
「アンタ、学長のパシリにでもなったの?」
「は? 何言ってんだ、このバカ? んなわけないだろ。これは俺の意志で持ってきたワケじゃない。ヴァル様の命令でやったことだ。」
「相手が違うだけで結局パシリじゃん!」
「あぁ? お前、喧嘩売ってんのか?」
クソ、結構恐い顔してるけど、負けないモンね! コッチも対抗してやる! そんなのでなんでもうまく黙らせられるなんて思うなよ!
「命令なんだから、しょうがないだろ。勇者の所へ持っていく前に、まずお前の所へ持っていけ、との話だから避けて通れなかっただけだ。」
「は? ナニソレ? 意味分かんないんだけど……?」
意味分かんないと思ったけど、剣がウチと共鳴してる! おかしいな? 魔王に壊されてから反応はなかったのに? 修理はされてるってこと? 共鳴してるだけで真っ二つになってるのはそのままだけど、元通りになってるから治せるかも……?
「お嬢さん、勇者の剣を治しましょう! 治しておけば、持ち主の勇者に危機が訪れれば、勇者の手元に戻ります。この事は伝説にも良く出てくる話です。必ず勇者さんの助けになるはずです。」
「それぐらい、知ってるよ。治せばいいんでしょ、治せば。」
勇者の逸話、特に剣に関しての逸話は生まれたときから、いくらでも聞かされて育ってきてる。子守歌もそうだったらしいし、隙あらば、そればっかりだったもん。
「……剣よ、元の姿取り戻し給え……。」
だからほとんど暗記したくらいに憶えてる。そんな昔話、生きていく上で何の役にも立たないのに。ウチが巫女をやりたくなかった理由の大半がソレ。もうウンザリ。だから、他の人には語られたくない。昔を思い出すから。
「凄い! 目の前で剣の巫女の儀式を見れるなんて! 僕は光栄です。」
大げさ! ジュニアめ、ウチの機嫌を取ろうとして大げさに言ってるな? そんな大げさにするからギャラリーが集まってきてるじゃん!集中してても、気配でわかる。気が散るよ、もう!
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(……羊の魔王の“切開”は厄介なものだな。原理的には“破壊”とほぼ同等とも言える。我々の技術でなければ再生は出来ない。全盛期といえど、魔術にも限界はある……。)
あれ……? 剣を再生しようとしたら、変なのが見える? これは学院のどこかで若めのオジサンが剣に触れている? もしかしたら、これは剣の記憶なのかもしれない。
(……フフ、勇者の剣に関しての情報だけでなく、貴重な魔王の情報も手に入れることが出来た。学長には感謝せねばなるまい……。)
この人、この声、どこかで会ったことがあるような? 誰だろう? つい最近……? 学院に編入してきた時だ! エルフ学長のとなりにいた人! 秘書とかかな?
(……そろそろ、学長も例の計画を実行に移すだろう。もうじき、あの事件の時期に差し掛かる頃合いだ。私もそろそろ立ち去らねばなるまい。……いや、敢えて残って、一部始終を見るのも一興かもしれん。程々に後学とさせてもらおう……。)
なんだろ? この人、剣を治したみたいだけど、言ってることの意味が全然わかんない。情報? 事件? 例の計画? よく言う、“インボー論”とか言うヤツかな?
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「凄い! 元通りになりました! 元よりも美しくなったような気がします!」
目を開けると、剣は元通り復元していた。ジュニアとか他のクラスメート達がソレを見てワイワイしてる。大道芸とかじゃないんだから、恥ずかしいよ! ……そういえば、エピオンがいなくなってる。終わったら、もっと愚痴を言ってやろうと思ってたのに! ムカツク!
「はあ、疲れた。変な夢みたいなのも見えたし! 朝からこんなコトさせられるとは思わなかった! 今日は寮に帰って寝てよっかな?」
「えぇ!? サボるんですか?」
「サボるとか言うな! ウチが悪いことしてるみたいじゃん!」
「……わかりました。体調不良ということにしておきます。」
「それで良い! じゃ!!」
今日のお勤めはしゅーりょー! 寮に戻ってゆっくり二度寝します! 夢の内容は気になるけど、ウチの専門外の話だからどうでもヨシ!寝て起きたら、豪勢な食事にしよう! じゃないとモチベーション上がんないよ!




