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第234話 愛する者のために


「お前にしちゃあ、随分と思い切ったことをするな。魔術師なのに体術使うとはよ。」


「俺だってさっきのアンタの技を見て思いついたんだ。アンネのヤツと戦っていつもよりかは消耗してるから、今がチャンスだって思ったんだよ!」



 俺と別れた後、騒ぎが起きたからこっそり様子でも見に来たんだろう。その上で手を出す機会を窺っていたとみえる。俺にすら気配を悟らせないとは大したもんだ。



「だからってよ? お前、ここからどうするつもりなんだ? こんなに密着してちゃあ、お得意の雷魔法も使えないんじゃないか?」


「そりゃどうかな? 使えないなんてのはタダの思い込みだって事を思い知らせてやんよ!」



 その宣言と共に月明かりが何かに遮られ、辺りが急激に暗くなっていった。頭上を見上げると星が見えなくなった代わりに雷光のような物が見え始めた。これは雷雲?



「お前、まさか……?」


「そのまさかだ! たっぷりと雷を味わいやがれ! ライトニング・ストライク!!!」


(ガガガァァァァァーーーーーーーン!!!!!!!)



 鼓膜が破れそうなくらいの大凶音と共に全身を痺れと熱さが走る! 落雷をまともに浴びせさせられたのだ! 雷なんて初めて喰らった。いや、喰らったら普通死ぬから、こんな経験を語れる人なんていないはず。意識はあるから、死なずには済んだみたいだな。



「……くっ!? 道連れか。お前にしては泥臭いやり方じゃないか?」


「うるせえよ! お前を倒すための最適解はこれしかないと思ったんだ! これじゃ避けられないし、あの技も使いづらいだろ!」


「確かにそうだが、このままだと共倒れだ。俺が死んでも、お前が生きてなきゃ意味がないだろう?」


「余計なお世話だ! 俺も喰らうとはいえ、自分の得意属性だ。耐性はある。だが、お前は魔術に対しての耐性が低い。魔力スッカラカンなヤツの方が先に死ぬのさ!」


(ガガガァァァァァーーーーーーーン!!!!!!!)



 二回目の落雷。今度も痛いし熱いが、これくらいじゃまだ死なない。俺はとことんトニヤの道連れ攻撃に付き合うことにした。


「まだ生きてるのかよ? しぶといなアンタは。でも、何発目で死ぬのか試してやるさ!」


「お前さ、あの女のためにここまで体を張るのかよ?」


「あぁ!? 当たり前じゃねえか! 愛する女のためなら、いくらでも体を張ってやる! そして、生き残って添い遂げるのさ!」



 コイツは愛する人間から捨てられるのを恐れるあまり、周りのことが見えなくなってしまっている。彼女を愛していない自分は価値がないとでも思っているのだろう。



「お前は俺を殺せば助かると思っているのか?」


「思っているさ! リンがいれば他に誰もいらない! 彼女と他のヤツらを天秤にかけた結果が、コレだ。愛する者と生きるってのはこういうことさ! 何が何でも妥協せずに守り抜くのが正しいんだよ!」


(ガガガァァァァァーーーーーーーン!!!!!!!)



 三発目の落雷を喰らった。さっきまでよりは威力が多少落ちている気がする。トニヤはやせ我慢しているが、ダメージは小さくないようだ。俺との会話で集中力も落ちている可能性はある。



「さっきから守る、守るって言ってるが、本当に守りたいのはお前自身の弱い心なんじゃないのか?」


「何言ってやがる! 俺は弱くねぇ! 弱くねえんだぁ!」


(ガガガァァァァァーーーーーーーン!!!!!!!)



 四発目。今回も弱い。トニヤ自身が怒りに我を忘れているため、集中力が分散してしまっているんだろう。羽交い締めにしている腕の力の方が強くなってしまっている。



「自分の弱さを否定するな! 弱さを認めた上で現実に立ち向かえ! 愛する者が間違っているんなら正してやるのが、愛している者の役目だ。それが勇気、愛を貫くって事だ!」


「うるせぇーーーーっ!!!」


(ガガガァァァァァーーーーーーーン!!!!!!!)


「蛇身濘行!!」



 五発目の落雷が放たれたとき、俺は蛇身濘行で羽交い締めから抜け出した。トニヤの素人同然の拘束からは、俺の未完成な蛇身濘行でも十分な効果を発揮した。



「天破奥義、跋渉歩法!!」


(ズンッ!!!!)


「ぐはっ!?」



 トニヤの腹部に体重を乗せた突きを喰らわせた。瞬時に異空跋渉を何度も繰り返した上で、その慣性を利用して突きを喰らわせる技。黄ジイが多用している奥義だ。異空跋渉が使えるなら誰でも繰り出せる。とはいえ異空跋渉は誰でも出来る技ではないんだが。



「俺にとっては守る対象は家族や仲間だけじゃないんだ。場合によっては敵対している相手だって守る。今のお前やジムもそうだ。アンネ先生や七光り男だってそうさ。俺は勇者になることを決意してから、無闇に人を殺さない事にしたんだ。それが勇者の責務だ!」


「クソッ、きれい事言いやがって……。」



 トニヤは吹き飛ばされた先で気を失い前のめりに倒れ込んだ。これでしばらくは起き上がって来れないだろう。……ん? ここにいるのは俺を含めて三人? 七光りマンの姿がない? アイツはどこへ行った? それにゲイリーのヤツも本当にやられてしまったんだろうか? さて、どちらを優先して探すべきか……?

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