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第225話 対立と分断


「せめて理由だけでも聞かせてもらえるか?」



 不可解なので聞けるなら聞いておきたい。彼にとってはこんなことをするメリットはないはずなのだが……? 単に魔が差しただけとは思えないのだ。



「ヘッ! いつもヘタレ根性丸出しなヤツがイキってんじゃねえぞ! どうせ浄化委員会とかと取引でもしたんだろ?」



 個人的な事情という線も考えられるが、何らかの組織と結託した結果というのもあり得るかもしれない。とはいえ彼に声をかけそうな組織はどこも思いつかない。



「トニヤ君、あなたならよくご存じなんじゃないですか? インスティチュート・ソサエティの存在を。僕が彼らの手先だったとしたら、どうします?」


「あぁ!?」



 興奮したトニヤと不敵な笑いのジムは睨み合っている。憎んでいる組織に属してるとわかったなら、トニヤも黙ってはいられないのはわかる。とはいえ、俺が忘れられてしまっている。先にジムへ質問したの俺なんだけど?



「実は僕の体は生身ではありません。ゴーレムと化してしまっているのです。」


「ハッ、とっくに人間辞めてるってか? そりゃ、テメエみたいな雑魚はうってつけの人材だろうさ。入れ替わったところで誰も気付きはしないだろうからな。」


「やめろ、トニヤ。お前、そんなに人を傷付ける事をいう人間だったか? いい加減にしろ!」


「コイツはもう人間じゃねえよ! それに常々、オドオドしてたから、イライラしてたんだ。本音を言って何が悪い!」


「本音って……お前!」



 トニヤのような不良気質のあるタイプからしたら、おとなしいジムの様なタイプは理解できないんだろうな。口には出していなかったが、日頃から鬱憤が溜まっていたと見える。もっともそれはトニヤだけではないだろう。おそらくジムも……。



「あなたにはわからないでしょうね。僕の様な人間の気持ちが。」


「わかってたまるかよ! 負け犬根性が染みついたヤツの気持ちなんか知りたくもねえな。知ったら自分にも移っちまうぜ、負け犬根性がよ!」


「コラ、トニヤ、いい加減にしろ!」



 トニヤの野次は留まることを知らなかった。こんなんじゃ普通にいじめが成立している。状況が状況とはいえ、許されることじゃない。



「僕は成績が良くなかったので、退学になりそうでした。退学になっても死ぬわけじゃありません。でも、僕にとっては“死”を意味しています。実家に戻ったところで、家を勘当されるのは確実。そのことで絶望した僕は自ら命を絶ちました。」


「ケッ、結局、負け犬じゃねえか。無能だから死んだんだ。真っ当な結果だぜ。」


「やめとけって言ってるだろ!」



 ジムはこれまでの経緯を話し始めた。これはトニヤの野次に燃料を投下したのも同然だった。だが俺はその話を聞いて、トニヤとは正反対の感情を抱いていた。他人のようには思えない。まるで自分自身の話を聞いている気分になった。もちろん、似たような経験をしたからなのだが。



「命を絶ったはずが、ある日、意識が戻ったんです。体を見たら人型の人形の様な姿になっていたいました。するとすぐにインスティチュート・ソサエティの人達が現れて説明を受けたのです。『君は選ばれし者だ。失った体を不死身の体に移し替えたのだ。我々と共に陥れた人間達を排除しよう』と告げられました。」



 どうやらジムは強行派の洗脳を受けてしまったようだな。同じ全身ゴーレムになっちまったローラとは随分経緯が違う。もしかしたら、トープス先生とローラが特殊な存在なのかもしれないが。



「どこかのセン公と一緒だな。体を与える代わりに協力を強制されるんだ。ゴーレムになっても、結局、犬は犬だな。」


「お前、犬とか言ってるけど、自分もそうなんじゃないのか?」


「なんだと、オラ!」


「今はジムの番だぞ。その話はまた後でじっくりしてやるよ。」


「あぁ!?」



 トニヤもおそらく洗脳されている。二人とも大人に利用されているんだ。なんとか解放してやりたい。この状況では骨が折れそうだが。



「とにかく事情は話しました。もう十分でしょう? 早く出て行って下さい。ここから放り出されば、命の保証はないでしょう。自ら手を下したかったですが、身の程は知っているので、魔獣達に任せることにします。」


「そうか。じゃあ、タニシの事は任せる。行くぞ、トニヤ。」


「うるせえ! 言われなくたってわかってる!」



 俺たち三人は砦を出て行った。日は暮れてるとはいえ、何が出てくるかわからない。こっから本格的なサバイバルが始まるんだ。でもその前に、トニヤのヤツとも一度話しておきたい。

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