第221話 女帝(二代目)の圧政
「オウ、結構オモロイことやってくれたのう!」
追加実習の内容が決定した翌日、俺は店の方に顔を出しに行った。例の島に行くまであと二日はあるので、せめてその間だけでも店の様子を見に行きたかったのだ。丁度その時、あのライバル店のオーナーがやってきたのだ。
「おや? “三匹の子豚”さんでしたっけ?」
「ちゃうわ、アホ! “サン”しか合うとらへんやんけ! しかも、豚とちゃう、言うてるやろが! 人数も違うとるやんけ! 一回のボケで、わしゃ、何回突っ込まなあかんねん!」
「いや~、やっぱ“三”回じゃないですかね?」
「何をうまいこと言うとんねん! 何でも“サン”に引っかけんなや!」
やっぱりお約束ですから、外せませんよね?やるべきことはやってもらわないと。でも、何しに来たんだろ? わざわざ、こんな朝から。俺だって、ちょっと遅めの朝メシ食べに来たくらいなんだよ?
「アンタらがおらへん時にチャンスやと思うて、怒濤の客呼び攻勢を展開したったのに! うまいこと業態変えて、切り抜けよったな!」
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「ん? ああ、そうっすね? 元のオーナー一族がセクハラと猥褻物製造の不祥事をしでかしたんで、失脚したんすよ。」
例のあのエロ人形事件を切っ掛けにタニシ・タガメらオガワ一族は経営から撤退させられる事態に発展したのだ。代わりに経営者に就任したのが……ミヤコだったのである!
「今までとは真逆の、シャレついたカフェに方向転換しよってからに! ココの学生らにエラい好評になりよったんや! そんなん反則や! ワシらに出来へん様な業態になりよったんや!」
「ウチらパーティーの女帝(二代目)が強引に改革を推し進めたもんで、サーセン!」
女帝は権力を握った途端、大胆にも業態を大きく変化させたのだ! 前々から女帝は味には文句を付けていなかったものの、業態、店構え、メニューの内容には頻繁にケチを付けていた。
“映えない”、“華がない”、“イケてない”という、ダサダサ三原則なるものを突き付け、タニシ食堂を否定してきたのだ。三原則とか言っといて、三つとも意味が似通っていることを突っ込んではいけない! アナタも処されますよ!
「なんやねん! あの健康志向メニューとか言うのは? ワシらの“罪悪感マシマシ超極悪”メニューが刃が立たへん! あんなん、免罪符安売りバーゲンセールしとるようなもんやで! うさんくさい宗教家なんか、あのネーチャンは!」
「正解です! ある意味では! それに、遊び人のクセに、“インフルエンサー”とかいうシャレついた肩書き名乗ってるし! 香具師みたいなもん!」
なんか話がミヤコの陰口大会に移行してしまったな。まあ、店を巡る動きについては独断と偏見で覇道を突き進んでいるので、しゃーない。そういうのは独裁政権には付きものだ。
「誰が香具師だって? うさんくさい宗教家? 豚のクセに陰口叩いてんじゃないわよ、クソ豚!」
「豚ちゃうわ! どこから出てきよってん!」
「うわぁ、出た! 女帝がおいでなすった!」
噂をすればなんとやら……女帝が姿を現した。まさかの緊急事態に現場に緊張が走る! 商売敵とはいえ、サンディーのオッサンとの共闘も考えた方がいいのか?
「おい、そこのへっぽこ・ゆーしゃ! アンタ、この前、銀色カルメンとかいう女と遊んでたらしいな? 昨日、犬畜生に事情聴取したら、白状したから知ってるんだぞ? この浮気者!」
「銀色カルメンって何だよ! 銀仮面だぞ! それに女かどうかはわからんぞ? 正体が女疑いってだけだぞ! それに襲ってきたのはヤツからだ!」
「ほう? その割には必死に言い訳してるな? 本当の事を言え! でなければ、ウチらの上様に言いつけるぞ!」
上様て……。エルを変な呼び方するんじゃないよ! それにえるはそもそも粗方の事情は知ってるんだがなぁ。確かにその辺の情報はミヤコ達には伏せてるけど。
「はいはい、わかった。追加実習に行くまでなら店の経営に付き合うよ。」
「ハイは一回で良い! 貴様も処して、たっぷり絞ってやるから覚悟しておけ!」
「ハイハイ。」
ん? 一瞬の好きのうちに豚が姿を消している? 暴君が出てきたから逃げやったのか? あんなデカい図体で素早く姿をくらましやがった! 全く、油断も隙もへったくれも無い!
「ゴルァ! 言った矢先から言ってるだろうが! 処すぞ? 処してやるからな!」
やれやれ。実習に行くまでは付き合ってやるか。本当の事を話すわけにもいかんしな。ゆっくりのんびり休もうと思ったのに。次は決死のサバイバルが待ち受けているんだからな……。




