第216話 信じがたい事実
「まずは誤解を解いた方が良さそうだな。人間への反逆を企てるゴーレムの組織、彼ら自身はインスティチュート・ソサエティと名乗っている。私も訳あって、彼らと行動を共にしている。」
俺がトニヤを説得しようとして、険悪な雰囲気になってしまった。それを見かねたトープス先生が助け船を出した。それでもトニヤは不機嫌な態度を変えなかった。
「ケッ! やっぱアンタはゴーレムの回しモン、いや、ゴーレムと入れ替わってるんだろ? それは俺も知ってる。どうせ、そこのバカを騙くらかして、俺を陥れようとしてるんだろ!」
「バカで悪かったな。」
「確かに私は回し者かもしれない。大分、ゴーレム達に肩入れし同情してしまっているしな。それ故、彼らを誤った道に向かわせるわけにいけないとも思っている。」
「口では何とでも言えるな。」
トニヤは疑いの態度を変えようとしなかった。今まで信じてきたことの根底を覆すような話だからな。そうなっても仕方ないとも思う。だが、ずっとそのままにしておくわけにもいかない。
「私達、インスティチュート・ソサエティは決して一枚岩ではない。人間と同じ、それぞれ主義主張が異なる。人間に深い憎しみを抱く者、人間との共存を目指す者、色々いる。ある意味あれがその証拠だとも言える。」
先生は向こうに倒れているゴーレムの残骸を指差した。銀仮面だけではなく、強行派のゴーレムがダンジョンに潜伏していると先生から聞かされた。だが、銀仮面ほど危険な存在ではなかったため、後回し、ミミックに対応させたのだと言う。
「どうせ自作自演だろ? 油断させといて、俺らを全員始末してゴーレムに置き換えるつもりなんだろう? ハッキリ言えよ!」
「しょぎゃわーーん! あっしがゴーレムになってしまうでヤンスか!?」
コレも罠だと言い張るか。とはいえコイツ自身も“あの事実”に対して必死で目を逸らそうとしてる様に見える。そろそろ俺もガツンと言ってやらないといけないかもしれない。
「お前さ、銀仮面がここに現れた理由についてはどう考えてる?」
「それはテメエを倒しに来たんだろう。学院からしたら、目障りな存在だろうよ。」
「違うな。戦って実力を見るのも目的だっただろうけど、本命は俺とトープス先生を牽制して、今後の出来事に関しての予告を残していった。」
俺は洗いざらい、銀仮面との間で起きたことをトニヤに説明した。それでも態度を変えない。話を聞いて、少しいらだちを見せ始めている。
「ヤツは俺らが結託しようとしているのを阻止しようとしている様に見えた。結託することがヤツら、いや、学長にとっては不都合なんだろうよ。」
「学長だと? 銀仮面は学長の使いだったのかよ! だとしても銀仮面にそんなことさせて意味があるのかよ!」
「お前に反逆ゴーレムの存在を教えたヤツは明らかにそれらと対立させるためにそうしている。あと、決闘とか、浄化委員会とのやりとりにしたって、そうなんだろうな、と思うぜ?」
「アンタ、疑ってんのかよ! あの人を!」
トニヤの興奮は収まらない。今までの出来事を全て否定されるようなもんだからな。それに一番疑いたくない人物を疑えと言われているんだ。怒りたくもなるか。
「疑うとか、そういうもんじゃない。銀仮面とやりあって色々悟った。アイツ自身がヒントをボロボロ落としてたからな。わかるなよ、と言う方が無理があるぜ?」
「そんなワケあるかよ!」
まだ俺に対して怒りをぶつけようとしてくる。そろそろ、核心をついた質問をしてやるとするか。決着は付けないといけない。
「状況は聞いてなかったけど、銀仮面に襲撃されたのはどういうタイミングだ? まさか、人目に付くような場所で襲われたとか言わないよな?」
「あたり前だ! 当然、他には誰も気が付いていなかったはずだ。気付いていたとしたら、あの人以外にありえねえ!」
「あの人とやらは何故気付かなかった? お前や俺しか知らない場所だったんだろ? 何故、銀仮面は隠れ家のことを知っていたんだろうな?」
「銀仮面が慎重に音を立てずに俺を襲撃したからだろ! それしか考えられないだろ!」
「そりゃどうかな? 銀仮面とあの人が同一人物だったとしたら……?」
「うるせえ! そんなわけない! アイツが、アイツがそんなふざけた事をするはずがない!」
そう。銀仮面シルヴァンの正体はアイツのはずだ。トニヤも薄々気付いていたとは思うが、信じがたい事実であるのは間違いない。だけど、そのことに向き合わないと、今後一層傷付くことになるだろうから……。




