第212話 対話を求める者
「おのれ! 認めんぞ! シルヴァン・クロー!!」
銀仮面は決着に納得がいかずに俺への攻撃を止めなかった。何やら拳の突起の所から縫い針の様な爪を生やしてきた。エベリオンは壊れてしまったからな。
「……異空跋渉。」
「……!?」
手刀で空を斬り瞬間移動した。爪による攻撃、これはルールの中で使うとは言ってなかったので、反則と見なした。その上で俺も武術使用を解禁した。
「破竹撃!」
相手の背後に瞬間移動し、後頭部に手刀を叩き込んだ。もちろん手刀なので仮面が割れるわけではない。こちらも本気で叩けば手が痛くなるので、冗談程度で済ませた。
「何故だ? 何故後ろにいる!」
「瞬間移動しただけだぞ。別に変わったことはしてないぞ。」
別に変わったことはしてませんが? 魔術師だったら瞬間移動くらい普通なんじゃないの? 人によってはもっと大それた事してるクセに驚き方が大げさすぎ。
「転移の魔術が使えるとは聞いていないぞ! 魔術は使えないのではなかったのか!」
「魔術じゃない。武術だぞ。」
「武術でそんなことが出来るはずがない!」
「だって、出来るようになっちゃったんだもん。」
色々鍛錬、実戦を重ねた上での習得だ。人に文句を言われる筋合いはない。使うの自体は簡単だが、そこまで到達するのが難しい。何も知らんヤツはに否定されるのは実に遺憾である!
「大体、武術は学長から禁止されていたのではなかったのか!」
「先に反則をしたのはお前だからな。勝敗付いた後の攻撃、エベリオン以外の武器使用。ダブルアウトだぞ。」
「クッ!?」
二つも反則しといて文句を言うとは、なんて不届きなヤツだ。これ以上言うなら、学長に訴えてやる。
「君が取り乱すとは、珍しいこともあるのだな、シルヴァン。」
「ム? トープスか? 今さらのこのこ出てきて何をするつもりだ?」
突如、はげ頭でひげ面のおっさ……じゃなくて先生が現れた。ローブがここの教員の物なので一目でわかる。ラヴァンも同じのを着ているのでわかりやすい。この人が噂のトープス先生か。
「人の妨害をしたのは君の方だろう? そもそも私は勇者殿と接触を図ろうとしていたのだからな。君の決闘趣味に邪魔をされたから様子を窺っていたのだ。」
「ハッ! おおっぴらに勇者と密会とは大した度胸だな?」
「どこで何をしようと学長には筒抜けだろう。別に構わんよ。私としては一部の身内に知られなければそれで良い。」
「たいした開き直りっぷりだ。」
やっぱトープス先生も銀仮面から監視されていたのか。他に判明したのは銀仮面が学長の側の人間だということ。俺に接触しようとしていたとはどういうことか? ここでリン先輩とローレッタの話のどちらが正しかったのかが判明するかもしれない。
「勇者ロア、初めましてと言っておこうか。噂はよく聞いている。」
「ああ、どうも、トープス先生。アンタのよからぬ噂はよく聞くよ。今日はその弁明を聞けるのかな?」
「困ったな。私は世間では悪者にされているのか。それも含めて君には真相を話すつもりだ。君の協力は不可欠だからね。」
こっちも接触を考えていたから、願ったり叶ったりの状況だ。できれば二人だけで話したいが、銀仮面はそのまま居座り続けるようだ。とりあえずおとなしくなってくれたから、まだマシかもしれないが。
「私の事はどこまで聞いている?」
「アンタが生身の人間じゃないというのは、方々から聞いている。アンタが所属している勢力が近いうちに反乱を起こすとも聞いてる。」
「そうか……私はその様に見られているのだな。しかし、私はその反乱を内側から止めようとしている。無益な戦いは止めさせたいのだ。」
「アンタの味方を止めようとしている?」
組織内でも意見が割れているのだろうか? 強行派と穏健派みたいな? これから大事を起こそうとしている団体がそんなことで統率は取れるんだろうか?
「私はゴーレム達の組織、インスティチュート・ソサエティに所属しているが、私は完全なゴーレムではない。」
「……? 生身の部分も残っていると?」
「その経緯を説明しよう。私はダンジョンの研究で探索していたときに怪我で下半身を失ってしまったのだ。その怪我で私は再起不能に陥ってしまった。」
リン先輩の話によると、トープス先生は大怪我をしたという記録が残っていたはず。それが切っ掛けでゴーレムと入れ替わってしまったと。
「それを証明できる? ホントかどうか話を聞いただけじゃ信用できないし。」
「わかった。証明を見せよう。」
先生はズボンの片側の裾を膝の所までまくり上げて足を見せた。生身ではなくカラクリ仕掛けの金属の足だった。義足のような感じだ。次は上半身。腕まくりをして、ナイフを取り出し、腕に少し切り傷を付けて見せた。赤い血が流れ出ているので、生身なのは間違いなさそうだ。そこまで偽装されてたらわからんけど。




