第205話 定番トラップ“虹色のきらめき”
「こんなんじゃ、キリがない! このままじゃ、俺らは実習未達成で退学にされちまうぞ。」
「師匠、そんなカリカリするもんじゃないッスよ! コレでも食べて落ち着いてくだせぇ!」
「いらん! 腹一杯だから!」
ゲイリーは俺にダメチキを差し出した。俺の残したヤツである。これだけじゃない。他の食べ残しまで腕に抱えてむさぼっている。コイツ、水流から逃げながら食ってたのか?
「まあまあ、勇者君、そんなに怒らんでもええガンスね。これでも飲んで機嫌を直して欲しいでガンス!」
オジサンは俺を宥めようとする。いや、なんというか、こうなったのはアンタが原因なんですけど? それはともかく、謎の飲み物を差し出してきた。虹色に輝いている! これは…レインボー・フラペチーノとかいうヤツなのか?
「これを飲めと?」
「そうでガンス。なにかご不満でも?」
「ご不満でーす!」
「も、もぎゃああーっ!」
俺はそのまま虹色の飲み物をオジサンの口を無理矢理開けて流し込んでやった。こんな怪しげな飲み物が飲めるかっつーの!
「ご、ごべぁ……ぎょびゃあああっ!!!」
オジサンの様子がおかしくなったのを見計らって、背後に回り込む。そして、オジサンの顔をアイツの方へと向ける!
(ブシャアアアアアッ!!!)
虹色の飲み物は見事に口から噴射された! おびただしい量の虹色の水がトニヤにかかった! いや、正確にはトニヤではないな。
「クッ!?」
「おやおや、今回の虹色の水の効果は魔法の解除だったようだな? 銀仮面さんよ?」
宝箱の罠の一種に“虹色のきらめき”というのがある。浴びたら麻痺したり、毒になったり最悪の場合は石化したりするやっかいな物だ。あの飲み物はそれを再現している、とカフェメニューに書いてあった。だから飲みたくなかったし、偽トニヤにかけてやろうと思った。普通にかけてもよけられる可能性はあったので、オジサンを有効利用した。
「何故だ!? 何故わかった?」
かかった部分が銀色になった。それが全身何カ所にも及んでいるので、正体は噂の銀仮面に違いないと推理した。銀仮面はトニヤに化けていた。幻術でも使っていたんだろうな。
「いやさ、入る前から、朝からなんか違和感を感じてたんだよ。なんかお前のツッコミが冴えないなと思ってたんだよ。」
「話が見えん! ハッキリと気付いた理由を言え!」
トニヤは完全に銀仮面へと姿を変えた。中途半端に解除された幻術を自分で解除したようだ。正体の確信はなかったが、トニヤが別人な事への疑いは入ってから抱き続けていたのだ。
「理由っていうより、勘だよ! なんか、コイツおかしいなって思ったんだよ。」
「そんな不明瞭な理由で!? 認めんぞ!」
「怒るなよ。俺だってオジサンに色々ちょっかい出されたからな。まさか、お前の正体を暴く切っ掛けになってくれるとは思わんかったけど!」
仮面を被っているので、表情はわからないが、割と動揺して、キレているのは仕草でわかった。ぐぬぬ、とか言い出しそうな感じだからな。
「改めて聞くけど、俺に用があるんだよな? どうする? 戦うのか?」
「フン! 戦うのはもう少し後になる予定だったのだがな。不本意だが、そうするしかあるまい!」
銀仮面は怒りを抑えながら、腰に差した謎の武器を抜いて、俺に向けた。だがすぐにそれをタニシ達に向けた。
「条件がある。私と戦いたければ、一対一で望むことを要求する。さもなくば、彼らの命は保証しない。彼ら程度ならば瞬時に“破壊”可能だからな!」
「おひゃーーーーっ!?」
「そ、そんな!?」
「望むところッスね! ドンと来いや、オラァ!!」
約一名のゴリラを除き、タニシ達は身構えたり、震え上がったりしている。例の破壊魔法とやらはまだ見ていないので、無効化のタイミングとかは未知の領域だ。そんな状態でみんなを守り切れるかどうかは怪しい。相手の思うつぼだとはいえ、こちらは要求を飲むのが最善かもしれない。
「望むところだ。一騎打ちに応じてやるよ!」
「それでいい! 余計な邪魔者など我々の戦いには不要だ。付いてこい!」
銀仮面は通路の壁に手を触れて隠し扉を出現させた。そんなところに隠れていたとは思わなかった。このダンジョン自体、銀仮面の庭みたいな物なのかもしれない。
「あ、アニキ!」
「大丈夫、心配すんな! 俺は簡単に負けない。」
「いや、というか、あっしらはどうしたら? アニキ抜きだと心細いでヤンス!」
「あー、そういうことか? なんならリタイヤしてもらってもいい。どの道、三人じゃ攻略は厳しいかもしれんし、事情を話せば何とかなるかもしれん。判断はお前に任せる!」
「ちょ!? そんなの急に言われても困るヤンスぅ!!」
俺もタニシ達が心配だ。とはいえ銀仮面は俺に早く来るよう促している。キッチリ例の武器をタニシ達に向けたままでだ。ホントに撃たれちゃ困るから、指示にはおとなしく従った。