第203話 何でやろ? 八番?
「よっしゃ! “7”だ! 前に進んだ!」
異変を見極め、前に進む。ただこれだけの単純なことのはずだが、こんなにハードだとは思わなかった。ヘンに神経をすり減らされる。
「も、もう、あっしはダメでヤンス! 休憩したいでヤンしゅう!」
「ちょっと疲れてきましたね。僕も休憩したいです。」
俺は精神的な疲れしか感じていなかったが、体力少なめなタニシ、ジムは疲労が溜まっているようだ。トラップ突破まであと少しだが、抜けた先が安全とは限らない。ボスがいるかもしれないし。ここで休んでいくか?
「ここで休んでいかんかね? そのためにこの店はあるのだよ。休息のタイミングが見極められないようではダメダ。」
チクショウ! 足元見やがって! このためか? そのためだな? 冒険者がトラップ突破に心血をそそぐ一方で、それを横目で見ながら店の利用を待っていると? うまいこと考えやがって! こんな店をつくったのは誰だぁ!
「とりあえず休むぞ! 俺はダメダ・ブレンドコーヒーを頼む!」
「僕はマーフィーズ・ローストコーヒーを!」
「あっしはウィルオー・クリスプとナイトメアン・コーヒーをボッタクリ・サイズで!」
「俺っちはマジェリコをでらボッタクリ・サイズでオナシャス!!」
みんな、待っていましたとばかりに速攻でオーダーを決めてしまった。取り残されたのは俺だけか……。なんでみんな速攻で決めれるんだ? このチェーンに来たことあるのか?
「なんだね? メニューが決定できずに迷っているのか? 即断できないようではダメダ! パッと決められないようなら、ダメダ・ブレンド・ボッタクリ・サイズと、チーズたっぷりウィザ・トーストにダメチキ追加で頼み給え!」「デモ・ノワールも頼んどきな!」
ダメおじとトニヤがニコニコしながらお勧めしてきた。しょうがないからそれらを全部頼むことにした。心なしか、オーダーを聞いている店員も笑いを堪えているような雰囲気だった。
「なあ? それより、さっきまであんな客いたか?」
カフェの端っこの席に小柄な人が座っている。しかも丈の長い服を着て顔も隠している。見るからに怪しいのが、そこにはいた。服の感じからすると若くはない。多分、オッサン。
「さあな。“異変”かもしれんぞ?」
トニヤは言動では興味なさそうにしつつも、視線だけ怪しいオッサンに睨みを利かせていた。それに気付いたのかわからないが、体をビクッと震わせた。その時に椅子の影にチラッと見えた物があった。あれは多分、尻尾……!?
「なあ、オジサン? いい加減、しつこいんじゃないか? タガメおじさん?」
「わ、ワギャーーン!? アッシはそんな名前ではないガンス! し、知らないガンス!」
おじさんは慌てふためき、必死で誤魔化そうとするが、かえって服で隠していた顔とか尻尾が丸見えになった。
「ああーーっ!? おじさん! 何してるでヤンスかぁ! おじさんの匂いがすると思ってたらホントにいたでヤンス!」
匂いで気付いてたんなら、先に言えよ……。というか、なんでこんな所におじさんがいるんだろう? 俺ら学生しかここに入れないはずでは?
「アッシは……コボルト・シーフでガンス! アイテムを盗んでやるでガンス! とびっきりのレアアイテムを盗んでやったるでグワンス!」
「レアアイテムって……例のエロ人形だけが狙いなんでしょ?」
「断じて違うでガンシュ! 伝説の武器“盗賊の短○”や“妖刀エロマシャ”を手に入れるのが夢でギャンシュ!」
結局、エロ路線じゃないか! 五十過ぎでこんなことばっかり考えてるのはどうかと思う。もう完全に手遅れだ。手の施しようがない。
「おじさん? あくまで的の振りをするなら、倒させてもらうけど?」
「それはダメダよ! アッシは“ゆうこうてきなモンスター”だから! 倒すと性格が“あく”になってしまうでガンスよ!」
「あー、そうくるんなら、あくまで事故に見せかけて、そこにいるミミックに倒させたり、あっちのエレベーターに放り込むから。」
「ぐあああっ! あくどい! あくどいでガンス!」
手を出したらダメって言うなら、事故を装って処理するしかない。トラップに巻き込ませる手段を使うまでだ。
「アンタ、結構、あくどいこと考えるな?」
「ホントにやるとは言ってないぞ? あくまで脅しだし、知り合いのプロのドSの思考をマネしただけだ。」
おじさんは隙を見て逃げ出そうとしていた。逃げるならそれでいい。いつまでもしょうもないことに付き合ってられないからな。おおっと! 揉めている間にメニューが届いたようだ
……。
「お待たせしました。ダメダ・ブレンド・ボッタクリ・サイズと、チーズたっぷりウィザ・トーストにダメチキ、デモノワールでございます!」
「ど、どぅわぁ~!?」
まるで巨人の国に来たのかと錯覚するような、巨大サイズメニューばかりだった! 図ったなダメおじ! トニヤ! どうするんだ、コレ!