第193話 なもしと菜飯は違うぞなもし!
エルがから戻ってきた翌週、ついに俺たちの出番、とならずに次は中級クラスの出番だった。ミヤコとロッヒェン達の出番だ。明日かららしい。仕方ないので、エルを交えてタニシ食堂の新メニュー開発をすることになった。
「これこそ菜飯ですね! 再現度が高くてビックリです! イメージ通り!」
「喜んでもらえて、アッシも嬉しいでガンスよ。」
その新メニューというのはエルの強いリクエストから実現の運びになった。“トレ坊ちゃん”の作中に登場するものだ。刻んだ野菜を米に混ぜた物であるらしい。付け合わせに豆腐の串焼きが付くようだ。俺は“トレ坊ちゃん”を少ししか読んでないので詳しいことはよくわからない。
「これで“トレ坊ちゃん”ファンの人が店にやってくると思います。あの作品を読んで学院を目指した人も一杯いるんですよ!」
エルは少し興奮気味に熱弁している。トレ坊先生の著作について語り始めると、いつもこうなる。“トレ坊ちゃん”の元ネタはこの学院にいくらでもあるらしい。ある意味、作品の聖地ともいえる場所なのだとか。
「早速、明日から試験販売を開始するでガンスよ。好評なら、他の店舗でも採用するガンス。」
タガメおじさんも意欲的だ。甥っ子のタニシの支援目的でやってきたが、新メニュー開発のアイデアが次から次へとやってくるので止まらないらしい。滞在期間を延長して、まだここにいるわけだ。おじさんは社長だけど、現場主義で商品開発も手がけているらしい。ときには暴走してトンデモメニューも作るらしいが、本人は楽しんでいるんだそうだ。
「おっ! コレがエルるん考案の新メニュー? ウチにも食べさせてよ!」
突如、ミヤコが乱入してきた。珍しい。今までミヤコは、ガツ森は「ダサい」という理由で否定的な態度を取っていたのだ。「男祭りの匂い」がするから嫌いであるとも言ってた。なんそれ! それにも関わらずやってきたのは、エルが関わっていることを聞きつけて来たのだろう。
「み、み、ミャーコちゃん!? いいでガンスよ! むしろ食べて欲しい。食べまくって!」
目にも止まらぬ驚異的なスピードでおじさんは新メニューを差し出した。おじさんは半ば興奮気味になっている。何故なら学院への滞在理由の半分くらいは若い女の子目当てだからである。タニシからミヤコの情報を知らされていたらしいので、是非とも会いたいとしょっちゅうタニシ宛の手紙には書いてあったらしい。おじさんもタニシ同様、他種族の女の子が大好きであるらしい。要するにエロ犬。オガワ一族とは一体……。
「ど、ど、ど? 味はどぉう? どうでしゅかぁ?」
「まだ食べてないんだけど? 焦りすぎ!」
「そうでガンした! アッシもせっかちすぎたでガンス! てへっ!」
興奮気味に無理してミヤコの若いノリに合わせようとしている。必死すぎて恐い。「てへっ!」とかキモいので止めて欲しい。痛々しい!
「まあ、いいんじゃない? 見た目、地味だけど。」
「うおおお! おじさんは最高に嬉しいでガンス!」
「そこ! 興奮しすぎ!」
「ごめんちゃあああぃ!?」
おじさんはミヤコに怒られて、興奮度を更にヒートアップさせた。ドMなところもタニシと同じみたいだ。ダメだ、コイツ! 早く何とかしないと……。
「そういや、実習明日からだよな? メンバー決まったのかよ?」
中級クラスは三人で挑む事になるらしい。もちろんロッヒェンと組むんだろうが、もう一人は? エピオン? いや、それはないか。
「ジュニアとリキシィ君だよ。」
「リキシィ? 誰それ?」
「リキシィだよ! 忘れたの? ゴワス口調の。」
「え!?」
ゴワス口調って、ヴォルフの事? アイツ、また来たの? 隙あらば割り込んでくるな? だってこの前会ったばかりだよ? 共闘したばかりじゃん?
「言ってなかったっけ? この前ので怪我してたから、ウチらよりも遅めに来たんだよ。中級クラスに。」
いつの間にかやってきていたらしい。そういや、ヤツも火炎魔法の使い手だもんな。見た目完全にファイターなのに、俺らよりも魔法の適性が上だったとはねぇ。敵わんなぁ。
「でさ、エピオンなんてボッチなんだよ? ダサいよね。『俺は一人で十分だ』とか格好付けてたけど!」
「やっぱりあの子、友達いないのね……。」
ヤツも中級である。しかも一人で挑むとか正気の沙汰じゃない。さすがに自信過剰なんじゃないか? エルも心配してるから、たまには他人と協力して欲しいもんだ。やれやれ。