第186話 多勢に無勢
「これであなたも心置きなく死ねるでしょ!」
私とローラは互いに分断され、ローラは二人、私はヘイゼルを含めた4人を相手にしていた。取り巻きたちに逃げ道を塞がせ、ヘイゼルは一人で執拗に私を狙い攻撃する。彼女の得意属性は火炎。火炎弾の魔術を放ってくるけれど、単純に狙って攻撃してくるだけなので、避けるのは簡単だった。
「どうせなら、あの勇者モドキも始末してやりたかったけど、あの男はあなたが死んだ後でさっくり殺しておいてあげるわ!」
「ヘイゼル、あなたにはロアは倒せない。私はここで死なないから!」
私は飛来する火炎弾を迎え撃つ体勢を取った。弓矢、飛刀など自分に向かって飛んでくる物に対して有効な技がある!
「一0八計が一つ、疾風摸空!!」
大鎌を高速で旋回し衝撃波を発生させ、火炎弾をはじき返した。それはそのまま放った本人の元へ飛んでいき、すぐ側を通り過ぎて壁にぶつかり弾けた。
「ヘイゼル様!?」
取り巻きの女学生達が悲鳴を上げる。中には私を強く睨んでいる子もいる。
「……くっ!? 舐めた事をしてくれたわね!汚れ者風情が粋がるのは大概にしなさい!」
「あなたの方こそ、跳ね返されたくらいで相殺することくらい簡単でしょう? しかも、口では殺すと言っているのに本気を出していない。」
彼女は昔から火炎魔術が得意だったので、精霊属性魔術の使えない私は良く揶揄われた。私は当然、相殺は出来ないので火炎で虐められる事も多かった。
「言わせておけば!」
時には火傷を負わされた事もある。その辺りは昔から加減を知らない所が多い子だった。今は敢えて手を緩めている辺り、宣言通り、嬲り殺すつもりなんだろう。
「追い詰められているのに、立場をわかっているの? 身の程知らずを思い知らせてあげる!」
ヘイゼルだけでなく、取り巻き達も魔術の印を組み始めている。すぐさま一斉に魔術が放たれた。風、氷、水、それぞれ属性が異なるため、こちらに向かってくる速さが違う。相手側は狙ってやっていないとは思うけれど、対処が難しい。
「ははっ、死んでおしまいなさい!」
「ヘイゼル様に仇成す、悪魔め!」
「グランデ様に逆らった罰を与えてやる!」
取り巻き達は口々に私を罵る。きっと、ヘイゼルから色々吹き込まれているのだろう。多勢に無勢とはいえ、彼女たちは出来れば傷付けたくない。
「アクセレイション!!」
向かい来る魔術を、身体能力を上げて、器用にすり抜ける。強引な手法だけど、今はこれくらいしか対処法がない。
「ありえない!」
「避けた!」
「何をしたの!?」
知らなければ、私が何をしたのか全くわからないはず。闇属性以外でも身体能力を向上させる魔術はあるけど、反射神経、動体視力までは同時に補強出来ない。文字通り超人的、というより悪魔的に強化を図るのがアクセレイション。私が使っているのは悪魔の所業とも言い換えれる。人から非難されかねない事をしているとは自分でも思う。
「はっ! いつまでも避けられるとは思わない事ね! 熱閃光!」
取り巻き達の魔術を避けた先を狙って、高速の熱光線が私の右肩を直撃した。取り巻き達の魔術に気を取られていたので、避けられなかった! 熱による激しい痛みに思わず顔をしかめる。
「ううっ!?」
「あはははっ! バカね! 本命はあくまで私の魔術よ! 悪魔の力を使ってズルをしたから、罰が当たったのよ!」
四人がかりで集中攻撃だと思っていたら、取り巻き達は牽制役にすぎなかった。本命のヘイゼルの攻撃を当てるための作戦だったんだ。
「今よ! 今こそあなた達の合体魔術を見せてあげなさい!」
ヘイゼルが号令を出したときには、もう既に魔術が放たれていた。気流を作り、水塊弾を霧散させつつ、それらに冷気を纏わせる。連携によって、氷瀑嵐の魔術を再現している。これは高位の氷属性魔術に相当するはず!
「うああああっ!?」
火傷の痛みのため、大鎌を使った相殺も出来ず、まともに氷瀑嵐を喰らってしまった。瞬時に全身が氷で覆われたため、身動きを取れない!
「はははっ! どう? これで火傷の応急処置にはなったんじゃない? ちょっと手厚くしちゃったから、ウッカリ凍え死んでしまうかもしれないわね?」
動けないけれど、リザレクションの再生能力で火傷は治すことが出来た。早くもヘイゼルは次の魔術の集中を始めているみたい。強い魔力が一カ所に集中している。このまま強引に脱出して、反撃しないと、次の攻撃に備えることが出来ない!
「最大級の火力、熱閃炎爆で解凍してあげる! 強すぎて消し炭になってしまうかもしれないけどね!」
私も対抗するためアクセレイションを使用するための集中を行った。そんな中、遠くの方からヘイゼルの所へ近付きつつある気配を感じた。
「お姉様に危害を加える輩は何人たりとも許しません!」