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第176話 学長の企み


「……結果として、引き分けとなり、両者共に生き残りました。」


「ほう、クリスタル・ゴーレムは破壊されたと?」



 私は先日行われた決闘に関して報告を受けている。特に今回は前回に引き続き、あの男が関与しているので、注目していたのだ。



「ええ。しかもクリスタルの性質を巧みに利用して破壊したようです。これは浄化委員会だけではなく、我々にとっても想定外の結果となりました。」


「アーチボルトはともかく、あの男が性質を知っていたとは思えん。だからと言って偶然が引き起こした事実と考えるのも合点がいかない。不可思議な話だ。」



 情報だけで分析すれば、あの二人が生き残る可能性はほぼ無いと言える。アーチボルトはほぼ雷属性魔術しか使えない。ある程度経験を積んでいれば対処も可能なのだろうが、あくまで学生だ。まだ若い。



「あの男が武術を使った形跡は見られませんでした。しかし、勇者の力を行使した模様です。これについては原因が判明していません。このような事象は前例がありません。」


「額冠は私の手の元にある。それでも力を発動させた。君は知らないだろうが、この事例は二回目なのだよ。一度目は大武会で同じ現象が観測されている。あの時もあの男の元に額冠は無かったのだ。」



 額冠を没収したのには二つの理由がある。第一に額冠の解析だ。額冠は古代から伝わる伝説の魔道具だ。付けた者に力や知識を与え、継承者を選別し、経験、技術さえも蓄積しているという。魔術師としてこれほど興味を引かれる物は滅多にないからだ。



「共通しているのは、絶体絶命的な状況であった事だ。一例目の際は全身に手傷を負い、相手も格上だった。今回も武術を禁じられ、剣もない。どちらも不可逆的な事象を覆したのだ。」



 第二にあの男と額冠の相関関係の調査。常識的に考えて、額冠無しで勇者の力を行使するのは不可能である。だが、あの男は再現して見せた。あの現象を解析するために制限を付けて学院への編入を許可した。その矢先、同じ現象を発現させた。思ってもみなかった成果である。



「ある意味、逆境的な状況が彼の事象を引き起こしたと?」


「まだ解析中故、詳細ははっきりせんが、トリガーの一つとして考えておくべきであろうな。おそらくは心理的な変化が起因となっているのだろう。それは今後、試す機会はいくらでもある。様々な状況を与えて、現象を観測するつもりだ。」



 今回は決闘という機会を用いて観測を行ったが、今後カリキュラムが進めば、様々な実習を体験することになる。その中で再び現象を観測できる可能性は大きいと思われる。



「勇者の力も不可解ですが、魔術を無効化する技術を用いた形跡が見られました。これに関してはどう思われます? 私は武術の使用を疑いましたが、それには該当しないようです。」


「魔術を無効化する技が彼の武術に存在することは確認している。以前のノウザンウェルでの一件では、それが原因で金剛石の王が敗れ消滅した。今回はそれとは違う技のようだな?」



 金剛石の王が彼の地に潜んでいることは魔術師の間では疑われていた。しかし、どのような方法を用いても暴くことは出来なかった。それを突如、あの男が現れたことによって全てが暴き出された。それと同時に打ち倒された事実が知らされ、魔術師協会では騒然となった。



「ごくわずかですが、魔力の使用が確認できました。たったの“1”でしたので誤差かもしれませんが……。」


「何らかの方法を用いているのは間違いない。こちらも解析の対象だな。それよりも、誰がこの技術を伝えたのだろうな?」


「あの男は勇者の就任以来、幻陽の賢者と関わり合いが深いとの報告があります。賢者が授けた知恵なのではありませんか?」



 勇者が幻陽の賢者と行動を共にしている事は各地で目撃されている。現在は別行動を取っているとの報告もある。あの賢者は我々魔術師協会に所属する者にとっては厄介な存在だ。我々とは主義主張が相反している。加えて、事あるごとに口を挟んでくるので迷惑極まりない。



「その可能性はある。だが妙だ。今まで、その様な技を使った実績は報告されていない。賢者が授けたのであれば、これまでの間に使用しているはずだ。」


「では、あの男自身が編み出した可能性があると言うのですか?」


「いや、それはない。魔術に疎い人間が即興で編み出せる技術では無い。私はある仮説を立てている。……高位の魔術師が支援している、と。」



 無効化するには魔術の知識、経験のみならず、高等な術式が必要になる。それが実現できるのは協会でさえ、私を含めて数名の魔術師しかいない。それを魔力無しの男が実現して見せたのだ。



「多少の研鑽どころで編み出せる代物ではない。恐らくは伝説級の賢者が授けた技術だ。思い当たる人物が一人だけ存在する。その者が授けたのだろう。」


「何者なのです?」


「石の賢者だ。」


「実在しているのですか? 古代の人物のはずでは?」


「偽物の可能性もあるが、現在は“トレ坊”という名義で作家をしているようだな。」



 彼の作品の中には明らかに我が学院を舞台としたものまで存在している。作中での描写はあまりにも生々しく、想像だけで創作したとは言いがたいリアリティがある。それに……、



「過去にこの学院で非常勤講師をしていたこともあるらしい。その時の実話を元にしていると言う噂がある。」


「にわかには信じがたい話ですが……。」


「あくまで仮説だ。古代からの知識があれば、魔術無効化の策を授ける事は出来るかもしれぬということだ。引き続き調査を願う。」


「承知しました、学長。」


「それから……アンネ・リーマン先生にはあの男に関する事は、些細な異変であっても報告せよ、と伝えておくように。」


「はい。伝えておきます。」



 額冠の解析も順調に進んでいる。あわせて勇者の剣も同様だ。あれに関しては魔王の能力についての貴重な資料にもなっている。いずれは我々が覇権を取るための大きな足がかりとなるだろう。

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