第173話 ある意味、陰謀論!?
「魔術結社浄化委員会……奴等がリンに目を付けてきたというのはこの前、話したよな? 直接手を下してきたのは奴等だが、実はこの件には黒幕がいるんだ。」
「黒幕? この前の話が全てじゃなかったのか?」
「そういうことだ。この場でしか話せないからな。」
浄化委員会ですら黒幕っぽいというのに、他に怪しい連中がいるとはな。それに、この場でしか、というのはどういうことだ? この前、二人きりだったはずだが、盗聴される危険があるから言えなかった? それだったら俺の正体も知られるわけにはいかないんだが……。
「あの時、話せなかったのには理由がある。奴等はどこでも目を光らせている。盗聴、監視を得意としてるからな。奴等は浄化委員会みたいに表立って行動していない。」
盗聴に監視ねえ……。まるでどこかのロリババアみたいだな。魔法を使いさえすればそういう芸当はいくらでも出来るようだ。音とかを記録する魔法道具はふつうに売ってたりするし。でも、バレないように行うのは、更に高い技術が必要らしい。
「お前はこの学院で人が行方不明になる噂を聞いたことがあるか?」
「ああ。噂だけなら。」
むしろ真の目的はそれの調査だ。これだけは悟られるわけにはいかない。コイツには勇者であることがバレたから、浄化委員会や学院の上層部をシメに来た、ということにはしておいた。勇者がわざわざ学院に来るには多少大げさな理由は必要だしな。
「あれが噂レベルで留まっている真相は……行方不明になっているのではなく、人が入れ替わっているからだ。しかも、人ではない物にな。」
「人ではない……物!?」
人が入れ替わり、ちがう物になっている? しかも、物? 物とは何なのか? まさかゴーレムとかに置き換わってるのだろうか? いやいや、ないない!
「黒幕っていうのは……まさかのゴーレムとか魔法生物が中核になっている組織だ。」
「魔法生物の組織!?」
この前のヤツが丸っきり人形みたいだったし、門番とか学院のそこらにいる衛兵みたいなヤツらも、所詮は道具の延長線上にいるような存在だ。人間の代わりになるような物なんているなんて想像できない。
「ある意味、魔法生物の反逆とも言っていい。自我を持った一部の魔法生物が魔術師に対抗し始めてるんだ。」
「な、なんだってー!?」
ビックリだ! トレ坊先生からの情報にはなかった新事実! そんなことがありえるのか? ある意味、飼い犬に噛み付かれるようなモンだ。下剋上とかそういうのにも似ている。違うのは道具として作った物が人間を攻撃し始めるとは……恐ろしい話だ!
「奴等は秘密裏に少しずつ人間を排除し、ソックリなゴーレムへと置き換え、徐々に勢力を伸ばしている。」
「可能なのか、そんなことが?」
「嘘みてえな、本当の話だ。ある意味、陰謀論じみているからな。もし気付いて人に話そうもんなら、ウソつき呼ばわりされるのがオチだ。それが奴等の策でもある。気付かないうちにじわじわと勢力を伸ばしている。」
恐ろしく巧妙だな。作られた魔法生物っていうのに、俺の何倍も頭がいいじゃないか。もちろん、それを作り出した人間が頭が良かったからなんだろうけど。
「で、なんで気付かれにくい事実に気付いたんだ? 普通、わからないだろ?」
「普通はな。でも、奴等だってときにはボロは出す。些細な事で気付いたんだ。リンがな。リンの恩人がゴーレムに置き換わっていたんだよ。」
「ここでリン先輩が関わってくるのか。」
「ここからはあたしが話すわ。」
リン先輩自身の話なのでここでバトンタッチってワケか。さて、どんな真実が聞けるのだろう?