第172話 茶でもシバこか?
――――時間は決闘の翌日まで遡る。俺はトニヤに案内され、とある人物に会うことになった。ヤツにとって大切な人物であるらしい。
「なんだこりゃ? 随分とボロい小屋だな。」
「テントに住んでるお前に言われたかねぇよ!」
俺らが住んでいる一角とどっこいどっこいな僻地、端っこの方のエリアだ。学院の備品倉庫などが立ち並んでいる様な場所。寮というか人が住んでいるとは言いがたい場所である。その中の使われなくなったような小屋。ここにトニヤの隠れ家兼、とある人物の潜伏場所なのである。
(……ガチャ……ギィ……。)
ドアを開け中に入る。かび臭く、埃っぽい匂いが立ちこめている。ここに住んでいるようだが、この様子だと住むのには適していない様な感じだ。
「おい? ホントにココか?」
「ああ。ドアの鍵を閉めて、ドアノブを引いてみな。」
「……?」
言われたとおり、やってみる。とはいえ、中からは押して開けないといけないドアなので、引いたからといって何も起きないはずなのだが……。引いたときビクともしないのを感じたのは一瞬だけで、開くはずのないドアが開いた!
「な、何じゃこりゃ!?」
しかもその先は外ではなく、通路になっている! そしてその先にも扉がある。まるでダンジョンの隠し通路みたいだ。
「居場所をカムフラージュするための工夫さ。幻術、転移の魔術を重ねて、隠している。その仕掛けで誤魔化しておいて、実際にはこの小屋の地下につながっている。彼女はこの手の魔術が得意でな。見事なもんだろ。」
まさか、そんな仕掛けがされていたとは! 鍵をかけた状態でドアを閉めるなんて動作は普通はやらない。鍵をかけたときに確認で開けようとすることはあってもな。
(……コンコンコン!)
トニヤが通路の奥にある扉をノックした。しばらく間を置いた後、誰かが出てきた。気さくそうな女性だ。長い赤毛を三つ編みにしている。それが目を引く女性だ。ぱっと見、魔術師っぽさがない。ローブみたいなのを着てないからかもしれないが。
「お帰り、トニヤ。そして、お客さんもいらっしゃい! あたしの名はリン・アヴェラル。初めまして、勇者さん!」
「どーも、トニヤと決闘したロアです。一応、勇者だけど、一応、お忍びで入学してるから、秘密って事でオナシャス!」
どうやらトニヤは俺の正体を彼女に話したようだ。うーん……まあいいか。彼女自身、身を隠しているから、情報は漏れない…かな? むしろ、トニヤの側から漏れることを心配した方がいいかもしれない。
「さあさあ、入って寛いで下さい! おいしいお茶を用意してあるんで。」
隠し部屋な割には中は広かった。普通の民家くらいの広さはある。しかも、窓からは日光が差している。さっきの話では地下室と聞いたはずだが、どういう仕組みなのだろう? おそらく、これも魔法を使って何とかしているのだろう。
「結構、いいだろ? ヘタに寮に住むよりかは、ココの方が快適だ。俺自身、今の身分になる前までよりも充実してる。住処だけの話でもないんだけどな。」
トニヤのヤツは機嫌良さそうに隠れ家を自慢する。住処その物よりも、彼女との同棲生活が充実してる、という印象を受ける。……リア充め! とか言っといて、俺自身もそういう身分ではあるがな。ムフフ! その間にお茶が出てきた。この香りは…ガキッツ茶だ。ノウザンウェルの特産品だな。
「じゃあ早速だが、彼女が貶められた原因について話していこうか。」
「ああ。頼む。」
(ゴクリ……。)
緊張感が高まり、思わず唾を飲み込む。とうとう詳細を知るときが来た。俺の目的と交わるかもしれない、この問題。学院の暗部を知るための重要な手掛かりだ。