第167話 虹をも掴む男
「……!? アンタは一体!? まさか……勇者だったのか!?」
「ばれちまったか。……じゃあ、しょうがない、勇者参上!」
大武会の決勝、勝負の決着の直前、不思議な現象が発生した。起こした張本人である俺は気付かなかったが、周りの人間全てが口をそろえて証言していた。
『全身に金色のオーラをみなぎらせ、額冠が額に浮かび上がっていた。その姿は伝説の勇者、その者だった。』
俺は額冠を付けているときの高揚感、勇者としての使命感に包まれはしたが、あくまで内面の変化だけだろうと思っていた。自覚はしていなかったが、外見上も大きく変化していたのだという。
今の気分はあの時と全く同じだ。トニヤが俺を勇者と認識したのは同じ現象が発生しているに違いなかった。学院にいる間は勇者を名乗ることは許されてはいないが、なってしまったのなら仕方がない。明らかに学院側の刺客のせいでこうなってしまったから、セーフ! これで責められるんなら、ゴーレムの件を引き合いに出してやる!
「キカカカッ!!」
今まで積極的に攻めてこなかったゴーレムが攻撃の態勢に入った。突然、全身が発光し始め、両手の平を前に突き出し、何らかのエネルギーを収束しようとしている!
「アレは……!? 気を付けろ、アレはレインボー・ブラストだ!」
「なんだそれは……?」
「七属性全てを収束させた、究極の攻性魔術だ! あんなものを喰らったらひとたまりもないぞ!」
「キカキカーッ!!!」
(シュワーーーーッ!!)
ゴーレムは笑い声のような軋み音を出しながら、虹色光線…レインボー・ブラストを放った! なんか水でも放出するかのような変な音と共に。 だが魔法とわかっていれば何も怖くはない。それって無効化できるってことだからな!
「極端派奥義、峨嶺辿征!!」
(パァン!!)
光線を手の甲で弾いて消滅させた。全属性だろうと、最強、究極だろうと俺には関係ねぇ!魔法であることには変わりないんだ。無効化してしまえばどうと言うことはない! 要は当たらなければただの光線だ。
「アンタ、今、何をしたんだ!?」
「え? さっき技名を言っただろ? それよ! お前の電撃ムチを消すのにも使った技だよ! 一応、武術みたいな技名付けてるけど、これは秘密な。学院側に武術禁止されてるから!」
「それよ、じゃねえよ! そんな簡単に魔術を無効化出来るはずがない!」
「簡単ではないよ。猛特訓したから! それと一応魔法ということになるから、それらしい呼び方をしたいなら、“ピンポイント・バリア”とでも呼んでくれ!」
「呼び方なんてどうでもいい!」
「あいあい、さいでっか。」
目の前で起こったデタラメな出来事に理解が追いついていないんだろう。理屈で理解しようとするから、そんなことになるんだ。考えるんじゃない。感じるんだよ、こういうときは!
「今度はこっちからも行かせてもらうぜ!」
ゴーレムは魔法生物。ならば霽月八刃を使えば、あっさりと崩れ去るはず! 弱点とかそういうのは一切関係ない。斬れれば問題ない!
「霽月八……っってぇ! 痛え! 硬いよ、コイツ!」
手刀はゴーレムを叩いただけで終わった。カッコ付けたのはいいが……剣を持っていないことを忘れていた。額冠無しで勇者モードを発動させたのはいいが、剣ばっかりはどうしようもない。
「……バカだろ。凄いのか、凄くないのか良くわからない奴だな、アンタは! いや、凄いバカなのは間違いないな!」
「いやあ、筋金入りのバカなもんで……。」
「別に褒めてねえから!」
さて、どうする? これでは互いの攻撃が効かずに勝負がつかない、膠着状態に陥ってしまった。何か策を考えないと……。
(バンッ!!)
「オイ、何やってんだ! そんなものが効くわけないだろ!」
「いや、なんとなく。」
俺は思わず、そこらに転がっている小さい瓦礫の塊をゴーレムに投げつけた。当然、瓦礫の方が砕けて割れた。……砕けて、割れる? 待てよ? 一応、試してみる価値はあるな。他に手はなくて、手詰まりなんだし……。