表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/331

第16話 被験者一号

「どうするヤンス? 加勢するヤンス?」


「もげら?」


「ふむ。むずかしいところじゃのう。この空間、他の者の思惑で記憶が拡張されておる。危険を覚悟して、尻尾を掴むのも手かもしれんな。」



 とにかく、あの人形女が怪しいのはわかった。一号とかいう少年を助けるとどうなるのかはわからないが、目の前で死なれたりするのは困る。助けつつ、女を倒すんだ!



「もっ、がーっ!」



 俺は思いきって斬りかかっていった。すると手前側にいた少年が反応して動きを見せる。しまった! 彼からも敵対されるかもしれないのに、それを失念していた。



「クソッ、他に手下を連れてきていたのか!」



 俺を敵と認識して斬りかかってきた。早い、俺に意識を向けてからの切り返しが瞬く間に行われた。先に攻撃を仕掛けた俺が防御体勢にはいらないといけなくなった。



「もがみっ!」


(ガギィィィィン!!)



 重い! 細い体からは想像できない重さの一撃だった。相手の剣は両手持ちの大型剣だ。少年の体格には少々大きすぎると感じたが。無理なく、俺への攻撃を放ってきたあたり、かなり強いはず。俺に剣を受けられるのを見て、そのまま体重をかけて押し込んできた。俺の体勢を崩そうとしている!



「どいつもこいつも、いつも俺たちの邪魔をする! 俺たちをどれだけ虐げれば済むんだ!」



 尋常じゃない力が込められている。ただの殺気だけじゃない。怒りとか憎しみが剣には込められている。その感情のエネルギーが、少年に力を与えているのかもしれない。



「も、む、ああ!」


「チッ、何言ってんだよ! 言いたいことがあるなら言え!」



 言葉で説得しようにも、今はそれを封じられている。非常にもどかしい。これじゃ対処のしようがない。実力行使以外の手まで封じられてしまうとは……。



「この野郎、ロクにしゃべれないくせに出しゃばるんじゃねえぞ!」



 少年は怒りにまかせて俺を蹴飛ばして間合いを空ける。だが、次の攻撃の準備に入っている。多分このまま間髪入れずに、大技を仕掛けてくるはず!



「死ねぇ!!」



 動きはまだ拙いが、アイツの戦法に似ていると思った。……ヴァル・ムングに! ヤツならここでシャイニング・アバランチャーを仕掛けてくる。力で押して、力で粉砕する。アイツの戦法そのものだった。



「もうめみもみん!」



 空隙の陣、と言いたいが現状ではこれが精一杯だった。相手の大技に合わせて反撃をする。戦いを長引かせたくはなかったので、峰打ちで無力化する!



(ガツンッ!!)



 紙一重で技を躱し、瞬時に脇へと移動し一撃する。少年は反応できずに峰打ちをまともに食らった。



「……ぐっ、あっ!?」



 彼は倒れた。まだ荒削りな部分はあったが、確かにヴァルの戦法を習得していた。体格に恵まれたヴァルに比べて体格の劣る少年が、無理なく再現していたところに天賦の才を感じた。自分とは正反対の……天才だと素直に思った。そんな彼が何故、被検体にされているのだろう? まともな社会で成長していれば、クルセイダーズに入団していたかもしれない。こんな少年が悪の人体実験に晒されていることが気の毒に思えた。



「お主……悪鬼の類いか? 僵屍鬼きょうしき(※キョンシー、東洋におけるゾンビのこと)にしてはやけに生々しいのう。」


「ホホホ、あなたの方こそ人の身を捨てた存在なのではないですか? 私にわからないとでも?」



 黄ジイと人形女が対峙している。俺と少年が戦っている間に何度か打ち合ったのだろう。周囲や床にその痕跡が残っている。それを見れば激しい戦いだったのが一目でわかった。さっきの物陰からタニシが覗いているが、ガタガタ震えながら口を開けたままにしている。それだけでも十分に二人の恐ろしさが垣間見えた。



「お主、この件の手を引いている黒幕じゃな?正体を見せい! さもなくば、儂が力尽くであぶり出すぞい!」


「……人の子風情が良く吠えること。私の計画は誰にも邪魔はさせない。私の作り出した魂の牢獄の中でせいぜい足掻きなさい。我ら魔族の恐ろしさ、とくと味わうがいい……。」



 意味深な事を言い残して、人形女はスウッと消えていった。しかも最後だけ、急に声質が変わった。別人の様な声だ。しかも纏っていた、どす黒いオーラはまるで……魔王だった。間違いない。前に戦った虎の魔王と似た気配だ。



「ままままっま、魔族ぅ~!? ヤバイヤンス! 魔王が関わっていたでヤンス! 恐いヤンスぅ!」



 タニシはビビリ散らしている。アイツも虎の魔王を見たことがあるので、あのときの事を思い出したんだろう。尻尾がクルンと体の前に出てきている。怖がっている犬の仕草と同じだ。



「魔王じゃと? 冥府魔道の力を持つ悪神どものことか? 確かに気質は蚩尤しゆうどもと似ておるな。質の悪い連中を相手にせねばならんとは。」



 黄ジイはヒゲをさすりながら、考え事をしている。何か独特の表現が多いが、“蚩尤しゆう”という言葉が出てきたのが気になる。宗家が忠告したという、悪逆の一族と関係あるんだろうか?まあ、それはともかく今回の一件には魔王が関わっているのは確実になった。エルの里帰りのはずがかなりの大事になってきたぞ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ