第143話 魔術師のやり口
「これで……よし、っと!」
昼休みに入り、手早く腹ごしらえを済ませた。他のみんなは食堂で食べたり、自分で用意したりして食べているようだ。この時間が終われば、学院見せしめイベントである決闘が行われる。大方の予想では俺らが無様に敗北し、史上最短の学院生活という記録を打ち立てて終了するものと思われている。
「アニキ? パーシィモン一個しか食べてないヤンス? それでダイジョウブでヤンスか?」
「ダイジョブ、ダイジョブ! 疲労回復、滋養強壮にパーシィモン、って言うくらいだからな! コレ一個食っとけば、丸一日何も食べなくても何とかなるんだぜ。ちゃんと実績はある!」
「わふ~ん?」
タニシはイマイチ、ピンときていないようだ。コイツの加入前の出来事だから仕方ないし、加入後もコレは仕込み熟成中だったので、サヨちゃんは出し渋っていた。まあ、知られても困るんだが。コイツが愛飲しているゴッツンの何倍もスゴいアイテムなのでそれぐらいがちょうどいい。
「退学がかかった大事な決闘の直前だってのに、随分と余裕なんだな? 大したご身分だ。」
トニヤだ。今日が初対面だというのに声を聞いただけでわかってしまった。コイツはこれまでの休憩時間では俺らの前に姿を見せなかった。自己紹介のときはやたらと突っかかってきたが、あの後は何をしていたんだろうか?
「だからって、慌てて焦ってっていうのもおかしいだろ。そんなんになるんだったら、決闘を申し込まれるとっくの前に、降参してるさ。」
「じゃあ、勝てるってか? 魔力“1”のクセに?」
やたらとそれにこだわるなぁ。普通に魔術師連中からすれば、俺みたいな特異体質は信じられないんだろう。だってしょうがないじゃないか。ホントに“1”なんだし。
「教えてやろうか? お前が相手にしようとしている人間のことを。ヤツは言うなれば“珍獣ハンター”だ。ありとあらゆる幻獣・魔獣の類いを手なずけ操ることに長けている。」
その情報はラヴァンからも聞いた。しかし、獣の類いを操れたところで、決闘にそれらを持ち出して、けしかけるなんてことは出来ないはず。だとしたら、何を使ってくるんだろうな?
「それがどういう意味かわかるか?」
「さあ? ワカラン。」
「奴等は別に魔獣使いってわけでもない。じゃあ、どんな手段を使うか? そこで魔術の出番というわけだ。」
魔獣使いについては昔、サヨちゃんから聞いたことがある。魔獣使いの素質のある者は生まれつき、獣が懐きやすい特異体質であることが多いそうだ。中には魔法を使わなくても意思の疎通が出来るらしい。思念波を使って会話すら出来る場合もあるらしいな。だが相手は魔術師。違う手段でその差を埋める必要があるはずだが……。
「奴等ベルムトは精神操作や幻惑系の魔術に長けてるんだ。懐かねえなら、強引に懐かせ心酔させてしまえなんて考えに至ったのさ。」
「やり口が狂ってるな。」
魔法は俺たち一般人からすりゃ、普通あり得ないことを可能にする手段だ。だからこそ、強引に物事を推し進めようとすることも出来る。最近わかってきたことだが、残念なことに魔術師ってヤツらはそういうことをするのが多いみたいなんだよな。まさかそんなことまで、って思えるくらい倫理観が崩壊してるヤツもいる。
「基本、幻獣・魔獣ってのは人間なんかより魔術に抵抗する能力が高い。要するに、人間相手なら容易く手玉に取れるってワケだ。」
そうか。でも、これは想定内だ。トレ坊先生が言っていた事と一致する。当然、トレ坊先生の話にはそれぞれの攻略情報付きなので、コイツの話の遙か上を行っている。何も知らないフリで俺は話を聞いているが、実際の結果を見たらコイツはどんな顔をするんだろうな?