第135話 犬になるか or 犬死にするか?
「じゃあさぁ、犬小屋作ってあげよっか? 食べ物も出してもらえると思うし。」
「しょぎゃわーーーーん!!!? テントとそんなに変わらんでヤンス!」
ミヤコとタニシは相変わらず、喜劇のようなやりとりを続けていた。こちらは重大な事実に気付いて焦っているというのに……。
「あくまでペットということにしといたら、脱法扱いになりそうなんじゃない? 魔獣とか使い魔飼ってる人もいるみたいだし。」
「ペット!? 使い魔!?」
「あのさあ、ここだけの話なんだけど、女子寮に可愛い子結構いるよ? 可愛がってもらえるんじゃない? プライド捨てたら、割といい思いできるんじゃないの?」
「ワハッ!? それはいい待遇かもしれないでヤンス! プライド捨てて、犬として生きてくのも悪くない気がしてきたヤンス!」
いかん! 早まるな、若者よ! タニシが変な誘惑に負けようとしている! ヘンな性癖に負けて、一段階上の変態にクラスチェンジしかかっている!
「……。」
ふと、トレ坊先生の石像がある場所に方向に目を移すと、エルが石像を見つめている光景が見えた。多分エルは石像の正体に気付いて思念波で会話しているのだろう。
《何か問題が発生したようですね?》
《発生っすよ! ヤバいっす! 死活問題ですよ! 食糧問題!》
《意外な所で障害が出てきましたね。》
これから困難な調査が待ってるというのに、しょうもないことが活動を妨げようとしている。腹が減っては戦は出来ぬ、腹が減ると腹が立つ、空き腹にまずい物はなし! 今はその、まずい物すら存在していない! どうすりゃいいんだ!
《私が多めに食べ物をもらって、差し入れするのはどうでしょう?》
《おお! エルが差し入れしてくれるんなら、なんとかなりそうだ!》
うん。それが一番堅実だろうな。エルの寮なら色々充実してそうだから、まともな物が食べられるかもしれない。そうだ、そうしよう!
《それは避けた方がよろしいかと……。それではいずれ彼ら、学園側に察知されてしまうでしょう。ここではそういうことですら、禁止されているのです。》
《な、なんだってー!?》
《気持ちはわかるけど、心の中で叫ぶのはやめて! 頭に響くから!》
いやー、つい普段のノリで叫んでしまう。それはさておき、差し入れとかそういう援助すら禁止されているとは。そんなしょうもないことにまで神経を尖らせんでもとは思う。
《じゃあ、どうすれば? 勇者がこんな学院の端っこで餓死なんて一生の恥…どころか餓死した勇者として永遠に語り継がれそう……。》
《考えすぎよ。流石にそんなことで語り継がれるなんてことはないはずだから……。》
《う~む、これは難問ですね。》
勇者が餓死か。聞いたことないよ、そんなの。というか、そんな死に方をした英雄なんているんだろうか? 戦い以外のことで死んだ人はいるかもしれんけど。
「もうあっしは犬として生きることに決めたでヤンス! ワンワン!」
「よーし、ポチ、お手!」
「お手っ!」
この話の最中にタニシはプライドを捨てて、本当に犬と化してしまったようだ……。しかも、なんか嬉しそうな顔してやがる。ドMが完全に極まってしまったようだ。俺も犬になるかな……。ワンワン……。
「おいーっす! なんか、また大物を捕まえてしまったッスよぉ!!」
さっきから姿が見えないと思っていたら……。付近の建物の影からゲイリーが上半身だけをこちらにのぞかせ、ドヤ顔でこちらを見ている。なんか嫌な予感しかしないんだが……。
「食料取ってきたッス! コレを今日の晩メシにしやしょうぜ!!」
(ズゥゥゥン!!!)
なんか先端に針の付いた虫みたいな尻尾を引っ張って獲物の巨大な図体を投げてよこした。虫っぽい尻尾とは裏腹に、体はライオンみたいな外見をしていた。おかしな所は尻尾だけじゃなくコウモリみたいな翼がついている。あれ? これは何か有名な怪物だったような気がするが……。
《マンティコアですね、これは。》
そうそう! それよ、それ! サヨちゃんが持っていた怪物辞典に載ってた! サソリの尻尾に獅子の体、コウモリの翼の怪物! 割と凶暴で危険な怪物だというが……。なんでこんな所にヤベぇ生き物がいるんだ? 待てよ? コレって、また何らかのトラブルが発生したんじゃなかろうか?