第121話 フフ……始まったな。
「とうとう動き出したようだな。奴等め。」
各地に巡らせていた密偵からの報告を統合し照らし合わせた結果、彼の者達は密かに活動を始めた事が判明した。
「その者達がかつてヴァル様を糾弾したのですわね?」
「その通りだ、レギン。忌々しい奴等よ。賢人会議。」
賢人会議とは我が野望の前に何度も立ちはだかった組織だ。ドロゴンズヘブン設立前から因縁がある。
「それはどのような組織かな?」
「そうか、貴公は異国出身のため知らぬのであったな。奴等の影響力は流石に東方にまでは届いておらぬはず。」
彼、コタロウ・サザは極東の国の出身だ。この国にはある程度滞在し、各地で鍛錬を行っていたという。とはいえ、賢人会議の情報は知るはずがない。我々の国の人間でさえ、知る者は少ない。活動は秘密裏に行われるため、ごく一部の人間だけなのだ。
「それでは説明しよう。賢人会議は世界の秩序を守るという名目の元、各界から集めた有識者七人を頂点として結成された。起源は約二千年前旧世紀から新世紀に切り替わった時期まで遡るという。」
「なるほど。歴史のある組織でござるな。ではどのような人材で構成されておるのかな?」
「七賢人の正確な正体までは判明していない。ある程度、疑わしい人物を何人か突き止めているにすぎんのだ。法王、聖女、審問官あたりはほぼ確実に関わっている。代々この三席は法王庁の人間に占められている。」
当然、彼らは表向きには公表していない。神教団の幹部が関わっているのは間違いない。教団が各界に発言力を持っているのは、賢人会議の助力があると考えなければ、説明がつかないことが多い。教団は賢人会議という後ろ盾があったからこそ勢力を拡大できたのだ。
「宗教がらみか。よくある話でござるな。彼の教団は我が故郷に進出しようとしていた過去もある。失敗に終わったようではあるが。」
「フフ、欲深い連中なら考えかねないことだ。身の程という物を知らぬのだ、奴等は。」
その時代は賢人会議内部で教団勢力が強い発言権を持っていた時期だ。世界の秩序を守るという名目を持っているにも関わらず、その権力を自信の勢力拡大に用いる者も過去にいたのだ。
「話を七賢人に戻そう。教団以外では魔術界の人物も選出されているようだ。魔術師教会や魔術学院、それらの理事や学長が七賢人メンバーを務めている可能性が高い。」
神教団同様、古くから強大な権力を持っているのが魔術師勢力だ。旧世紀に於いては魔法を中心とした文明も栄えていた。その末裔が今日の魔術師教会を設立したという。表向きの歴史では伏せられた事実だが、我が配下には生き証人がいる。それがレギンだ。この事実の裏付けは彼女からもたらされた情報によって成された。我が野望が成就した暁には、その真実の歴史を公表するつもりだ。
「七賢人、残りの三席は時代により異なるようだ。時の英雄や権力者が選出されるといわれているな。勇者やその経験者が入っている可能性もある。」
「勇者も選出されると? 存命の元勇者が関わってる可能性もあるのでござるな。」
「あともう一つ。この話はあくまで眉唾物なのではあるが……、」
私も若い頃から七賢人に関する情報を探っている。敵対する相手の情報は多い方が有利であるからだ。あらゆる文献、あらゆる資料、そして、レギンからの情報。それらを調べているうちに私はある疑いを持ち始めた。
「七賢人の中に魔王が紛れ込んでいる可能性があるのだ。」
「神教団という魔族の敵対勢力がいるにもかかわらずでござるか?」
「魔王軍も一枚岩ではない。神教団ですら法王派と騎士団派の派閥で分かれているのだ。いやむしろ、神側のスパイが魔王軍に潜伏していると言った方がいいかもしれん。」
どこにでも密偵は紛れ込んでいるものだ。それは我々ドラゴンズヘヴンとて例外ではない。このやりとりに耳を潜ませている者がいるのは既に感知している。その者が魔王軍や七賢人に与していることも……。