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第120話 ニアミス……?


「ご苦労だった。わざわざ苦労役を買って出てくれてすまなかったな。礼を言う。」



 総長は席を立ち、深々と礼をする。勇者とロッヒェンを送り出した翌日、私と総長はとある人物の帰還を迎えていた。先日、“十字の吻首鎌”がグランデ家を襲撃した件で法王庁への抗議に向かってもらっていたのだ。



「いえいえ。礼には及びませんよ。一線を退いた私にとって交渉事は適役でしょうから。それに法王庁を相手取るなら私の肩書きがあった方が舐められずに済みますからね。」



 報告によればグランデ家の屋敷は焼失し、犠牲者も多数出たとのこと。加えてグランデ嬢を始めとして、勇者一行に危害を加えた点も見逃せない。



「彼らの言い分によれば、現グランデ家当主による出動要請があったので対応した、とのことです。この当主については五年前のデーモン・コアの件で、通報を行った人物と同一ですね。」



 彼らの活動は近年、目に余る物があったため、それを戒める必要があった。立場上、それが出来る組織は我々ぐらいしかいないのだ。 



「法王庁へ多額の寄付を行っている人物ということだったので、要請を反故にすることも出来なかった、とも言ってましたよ。デーモン・コアが絡んでいるわけですしね。」



 苦しい言い分だな。必要以上に被害を拡大した原因は彼らにあるというのに。かつての事件でデーモン・コアを処理できなかっただけに、メンツを取り戻そうと躍起になっていたのかもしれない。



「それはそうと貴公はグランデ家に縁があったのではないか?」


「現当主とは面識はありません。現当主の姉上とは魔王討伐の際に戦友だったというだけですよ……。」



 彼はトレードマークともいえる眼鏡をクイと上げ、淡々と答えた。まるで自分に関係がないとも言いたげな態度だった。過去の仲間の話題だというのに冷ややかすぎるのではとも思う。



「貴公の戦友エルフリーデ殿のご息女が先日までここを訪れていたのだ。タイミングがあえば顔を合わせることも出来ただろうに。もう少し引き留めておくべきだったか?」



「それは残念です。一度会っておきたかったですね。正直意外でしたよ。彼女に子供がいたなんてね。」



 知らなかった? かつての戦友に関する情報が耳に入ってなかったとは思えない。魔王討伐以降は音信不通だったのだろうか?



「ご息女はある人物と共に旅をしている。それが現勇者、ロアなのだよ。貴公の弟子である先代勇者カレルが任命した男だ。」



 そう、彼は先代勇者の師だ。彼の名はシャルル・アバンテ。二代前の勇者を務めていた人物だ。弟子が任命した今の勇者について何を思っているのだろう?



「エルフリーデさんのご息女が勇者と共に旅をしているなんてね。なんという奇妙な縁なのでしょう?」


「アバンテ卿、ご息女をデーモン・コアの浸食から救ったのが現在の勇者、ロアなのです。その場に立ち会ったので、私はその奇跡の証明者ということになります。」


「ほう? 奇跡……?」



 アバンテ卿は私の話に興味を示した。ロアは歴代勇者の誰もが為し得なかった偉業をやってのけた。グランデ嬢の件もそうだが、序列十一位の虎の魔王のコアを完全に消滅させた。討伐に成功しても長い年月をかけて復活する魔王。その不死性すら破壊し根絶したのだ。それは奇跡と形容するにふさわしい偉業だと思う。



「彼は東洋からやって来たのです。東方の帝国で名を馳せる武芸の名門、彼はその名門の出身なのですよ。その流派の奥義こそが奇跡を発現させるのです。」


「なるほど。勇者の剣技ではなく独自の流派を使いこなす勇者ですか。私やカレルとは異なるタイプの人間の様ですね。」



 アバンテ卿は勇者の三大奥義の使い手として有名だ。しかも歴代随一とも言われるほどだ。当然、弟子のカレルも同様に三大奥義の使い手だったのだ。



「そういう話であれば一度会ってみたかったですね。」



 少し笑みを浮かべながら彼はそう言う。その目が少し鋭く光ったのを私は見逃さなかった。

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