第115話 突然の乱入
「ハ、ハリスだと!? 序列第五位の魔王が何故ここに……?」
いつの間にか意識を取り戻していたエドが謎の羊男について言及した。アレの正体が魔王だっていうのか? 最悪だ。こんなタイミングで敵の増援、しかも魔王だ! エドの言葉から判断すると、猿の魔王や蛇の魔王よりも格上のはず!
「メ゛ェェェェェェェっ゛!!」
羊男は一切しゃべらずに薄気味悪い声を上げるだけだった。この状況を見て、余裕を見せつけているのだろうか? 俺はともかく、みんな傷つき息も絶え絶えだ。猿の魔王は敵意をなくしているとはいえ、向こうからすれば絶好のチャンスだろう。そういうのが一切わからないことが更に不気味さを強調している。
「どういうつもりだ、ハリス! 俺が負けたから始末しに来たっていうのか? そのつもりなら俺も容赦しないぞ!」
羊男は顔を上げ、ニッと笑った後、姿を消す。気付いたときには俺と猿の魔王の目の前に現れた。一瞬だった。猿の魔王の命を狙っているのは明らかだったから、俺は妨害に入る!
「メ゛ェェェェェェェっ゛!!」
「味方殺しなんかさせないぜ!」
猿の魔王との間に割って入り、剣で攻撃を受け止める。間一髪だった。その時初めて相手の武器の正体がわかった。小型の短刀だ。しかも戦闘用には見えない。チャチなナイフで、普通の剣を受け止めたりしたら簡単にへし折れそうなくらいだ。こんな物でも猿の魔王の太い腕を切り落とすぐらいだから切れ味は相当あるだろう。
「メ゛ェェっ゛!」
羊男は短く啼いた。と同時に手元に異変を感じ視線を落としてみると、剣に切れ込みが入っていた。丁度、相手の短刀と合わせている部分からスッパリと切れている!
「なっ!? そんなバカな!?」
あり得ない事が発生した。持ち主が死なない限りは壊れないと言われていた剣を壊された! これはどういう事なんだ! 肝心の武器が壊されてしまったら、戦いようがない! これは大変なことになってきたぞ!
「メ゛ェェっ゛!」
動揺している俺に踵を返し、猿の魔王に向き直った。猿の魔王も応戦するが、ナイフによって切り刻まれ、残っていた方の腕も切り落とされた!
「メ゛っ!!」
羊男はがら空きになった猿の魔王の胸に腕を突き刺した! 黒い血が辺りに飛び散り、突き刺した当人も血まみれになった。
「メ゛ェェっ!」
不気味な笑いを上げながら、貫いた手を強引に引き抜いた。その手には水晶が握られていた。デーモン・コアだ!
「チェストォォォォォッ!!!!!!」
大声を張り上げながら迫り来る大きな威圧感! その声の主は……総長だった! 声と共に手にした巨大な剣を一閃させた。
「メ゛っ!!」
「今度こそは逃がさんぞ、ハンニバル・ハリス!!」
間一髪で攻撃を避けたハリスは総長を目の前にして、身構えていた。様子からすると想定外の出来事だったようだ。当人も十分不意打ちと言ってもいいような乱入の仕方だったのだが。
「我が剣、十字剣の錆となるがいい!!」
総長の十字剣は大剣に二本の大きな刃が交差するような形状になっている。この刃が大剣から分離し、ハリスを取り囲むように展開した。ロッヒェンの炎剣はこれを元にして作られたらしい。確かに似ている。
「三位一体の制裁!!」
複数の刃が羊男を襲う! 片腕を切り飛ばされつつも、猛烈な攻撃の嵐を軽業師のように複雑な動きで回避している! それどころか、最終的に真上に跳躍し総長と刃を交えて着地した。
「相変わらず器用なことをしよる! 我が剣の猛攻を躱すとは!」
「メ゛っ!!」
突如、視界全てが真っ暗になった。突然の出来事だったので、一瞬何が起きたのかわからなかった。しかし、さっきまでの戦いで似た現象は見た。ブリーリョなんとかっていう目眩ましだ。多分アレだ! でも気付くのが遅かったかもしれない。この隙にハリスが逃亡を図っているかもしれなかったからだ!
「ムウッ!? 逃げおったか!」
総長の出現に危機感を感じたのか、あっさりと逃げてしまった。気付けば、切り落とされた腕も消え失せていた。あの腕にはコアが握られていたはず。多分アレを奪うことが目的だったのだろう。でも一体、何のために? 謎は深まるばかりだった。