第109話 その男、凶暴につき
「いい加減にしなさい! もう十分でしょう!」
もう私も我慢していられなくなった。相手がデーモンとはいえ、何をしても良いって訳じゃない。勇気を出してゲイリー君を説得することに踏み切った。
「なんすか、姐さん? 咎められるようなことなんてしてないッスよ?」
「明らかにやり過ぎなのよ、あなたのやっていることは。」
「やり過ぎ? 何がッスか? デーモンなんて死んで同然の存在ッスよ?」
彼はやっぱりそういう認識でいるんだ……。確かにデーモンは予断を許さない相手だとは思う。彼らは人間以上に人間の心の隙を突いてくる。どんな手段を使ってでも、こちらを陥れようとしてくる。相手にするときはこちらも非情にならないといけない。そんなことはわかっているけれど……、
「私の主観で意見させてもらうけれど、あなたの戦い方は相手を傷付ける事を楽しんでいるように見える。勇者の弟子のあなたがそんなことをしてもいいと思っているの?」
「だったら、何すか? 人生楽しんでなんぼのモンっすよ! だったら悪魔退治も楽しまなきゃあ!」
楽しむ? 彼の心の根底にはそういうものがあるっていうこと? 戦いを生業にしている人の中には一定数そういう人達がいることは知ってる。でも、勇者の弟子を名乗りたいのなら、そんなことを許してはいけないし、例え思ったとしても慎まないといけない。第一、ロアがそんなことを許すとは思えないもの。
「ダメよ! そんな考え方は間違ってる! 戦いの目的意識の前提が間違ってる。自分のために、ではなく、人のために戦うことを意識しなさい!」
「人のためが何だって? そういうのも結局回り回って、自分のためじゃないっすかぁ!!」
「奇遇だな。俺も同感だぜ!」
(ガシィッ!!)
その時、ゲイリー君を背中から羽交い締めにする者がいた。ネグロスだった! しかも、先程までの傷がほとんど治ってる。ゲイリー君との話に集中していたから気付かなかった!
「俺をよくもコケにしてくれたな! 魔族相手に処刑ショーなんてしたのが間違いだぜ! ハッキリ言って百年早えんだよ!」
「チクショウ! 放しやがれ!」
ゲイリー君は羽交い締めにされて、必死に逃れようとしている。それでもよっぽど力が強いのか、ネグロスはびくともしていない。つい先程と立場が逆転してしまっている。
「ネグロス・エクスプロシオン!!」
(ドオォォォォォォォン!!!!!!)
「ううっ!?」
突然の爆発だった。爆風が私のいる位置にまで影響するくらいだった。もう少し近い位置にいたら巻き込まれていたかもしれない。ネグロスが技の名前らしき言葉を叫んでいるから、体を密着させた状態で爆発したんだと思う。自ら爆発してそれに巻き込んだみたい。こんなことが起きたら二人とも無事では済まないはず。
「ハッハハ、ざまあみやがれ! 魔族を舐めるからこんなことになるんだ!」
二人とも、爆発の中心にいたのにどちらも体の原型を保っている。当然、自爆した本人もダメージを負っているけれど、ゲイリー君は着ていた鎧がボロボロになってしまっている。所々、外れて地面に落ちている。力なく倒れているので下手をしたら命を失っているかもしれない。
「まるでボロ雑巾だな! こんなヤツにはもう用はない。次はそこの女を倒して……イグレスだな。早くしねえと、ボスが先に殺しちまいそうだ!」
彼の本命はイグレスさんにあるようだけど、思い通りにさせるわけにはいかない。相手はこちらに狙いを定めてゆっくりとやってきている。その間に受けた傷がどんどん修復されていった。
「さあて、準備はいいか? 次はお前さんの出番だ……、」
「爆裂、爆刃!!!!」
「アッ……!?」
ネグロスの背後にゲイリー君が現れたかと思った瞬間、彼は剣でネグロスの体を縦に真っ二つに切り裂いた。そして、爆発。これが一瞬の間に行われた。あまりに一瞬の事だったので、理解が追いつかなかった。
「爆発は俺の専売特許なんだよ! 覚えとけ、このエテ公がぁ!」
ゲイリー君は血走った目で爆炎を睨んでいた。その時、私は彼の体の異変に気が付いた。……今の戦いで受けたはずの傷がほとんど治っている? まるで……魔族のようだった。彼は一体、何者なんだろう?