第106話 未来につなげるために
「ハハハッ!! もう後がないな! そのザマでは技を振るうことも出来んだろう!」
左肩に傷を負わされ、その後は追い打ちをかけるようにひたすら打ち込んでくる。勝ちを確信しているためか、手抜きの攻撃でわざとこちらを苦しめるようにしている。くやしいが今はやられるがまま、凌ぐだけで精一杯だった。
「全く、人間ってのは脆いモンだな! ちょっとした傷ですぐに戦闘不能になる。魔族だったらそれぐらい、すぐに治る。貴様の父親もほんのちょっとの負傷が原因で死んだ。」
「何!?」
「どれだけ強くなろうと人間である以上、限界がある。肉体は脆いし、力や魔力も俺らには到底及びやしねえ。その上、技においても俺たちルス・デルソルが奪い取ってきた膨大な量の技がある。」
ヤツらは見ただけで技を盗めるという。倒した相手ならより完全な形で吸収出来るらしい。だからこそ、父上や数々の英霊達の技を使いこなすことが出来る。技が多彩であれば、相対した敵と相性のいい技で戦えば勝つことも容易だ。そうやって数々の敵を打ち破ってきたのだろう。
「死の間際に良いことを教えてやろう。ボスと俺らルス・デルソルはある意味、不死身だ。誰か一人が生き残ってりゃあ、時間を経て復活できる。要するに七人で一人の魔王みたいなモンだ!」
何ということだ! 師匠が倒したはずのネグロスが復活しているのはそのためだったのか!それじゃ、キリがない! 今までの英霊達が敵わなかったのはそれが原因なのかもしれない!
「俺らの強さの秘密を聞いて更に絶望感が増しただろう? 俺ら全員を倒しきる事なんて人間如きには到底無理な話だからな。特にボスを倒す事なんて夢のまた夢だ! 始めっから無理な話だったんだよ! お前らにはな!」
倒すことが出来ない? 確かに僕達、クルセイダーズだけならそうかもしれない。でも今は勇者も共にいる。勇者は不思議な秘剣を数多く使うという。師匠や他の六光の騎士達からも聞いたことがある。
「僕達には無理かもしれない。でも、それを可能にする人がこの場に来ている!」
「は? 誰がそんなことを出来るって言うんだ?」
勇者ロアの逸話はただ聞いただけではにわかに信じがたい話ばかりだった。でも実際に手合わせをしてみて、それらの話は正しかったことを実感した。勇者の全てを知ったわけではないが、猿の魔王達の秘密を伝えれば、攻略の糸口が見つかるかもしれない。
「勇者だ! あの人なら魔王を倒せる! 既に倒した魔王もいるのだから間違いない!」
彼に敵わなかったのはくやしかったけど、彼ほど勝つための希望を持たせてくれる人はいないだろう。そのためにも僕がこの場で勝てなければ、未来につながらない!
「勇者だと? 勇者だろうと所詮は人間だ。俺らに敵うはずがない。貴様もこの場で死ぬ。この状況で勝ち目など無い! 最後はあの技で葬ってやる。貴様ら一族の技でな!」
ヴァボーサは追従剣を展開し技の構えをとった。本気で止めを刺すつもりらしい。これが正念場だ! ここで勝てるかどうかが世界の命運につながると言ってもいい。負けるわけにはいかない!
『聞こえる? ジュニア!』
そのとき、お嬢さんの声が聞こえた。奇跡なのか理由はわからなかったけど、今の僕にはありがたい事だった。
『どうして、貴女が……!?』
『剣を作り替えるときにアンタに話したよね? ウチの力が込められてるって事は、体の一部みたいなモンなの! だからこうやって思念波も送れるの。逆に剣を通してアンタの戦況も伝わってくる。』
ずっと僕を見守ってくれていたのか! 父上の声が聞こえたのもそれが作用して起きた現象なのかもしれない。そうだとすれば今、僕は父上と一緒に戦っているということか。いや、それどころかお嬢さんも一緒に戦ってくれているのだろう。そうか、僕は一人じゃないんだ!
『今からあの技を使うんでしょ? そうだったら、あのときの事を思い出しなさい! アンタとお父さんの思い出の日の事を! 思いを剣に乗せてクソ悪魔をぶった切ってやりなさい!』
思いを剣に乗せる……? この剣が僕の記憶から作られた剣なら人の情念を強さに変えることが出来るんだろうか? ただ倒す、殺すだけを目的にしている相手とは違って、こちらには人々の希望や情念が上乗せされている。その分上回っているんだ。負ける道理なんてないはずだ!